| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S04-2  (Lecture in Symposium)

熱帯泥炭湿地林における森林の人為的攪乱とその影響

*塩寺さとみ(京都大学東南アジア研究所)

湿地林とは,淡水や海水によって冠水,もしくは定期的に覆われる低地林のことである.土壌が水で飽和する頻度,もしくは期間が長いため,そこに生育する植物は特異な環境への適応を示す.東南アジアの一部地域においては沿岸部から内陸部に向かって,マングローブ林,汽水湿地林,淡水湿地林,泥炭湿地林といった森林からなる自然植生が見られることがある.なかでも泥炭湿地林は広大な面積を占めており,これらはおもにインドネシア,マレーシア,パプアニューギニアに分布している.泥炭湿地林は巨大な炭素の貯蔵庫として,また様々な固有種や希少種を育む生物多様性の揺籃として,これまで重要な役割を果たしてきた.しかし,これらの生態系は泥炭の発達とともに,生物・非生物間の微妙なバランスのもと長い年月をかけて成立し維持されてきたため,他の生態系よりも脆弱であり,撹乱による影響が著しい.近年では,大規模な農地開発等による泥炭湿地林の減少や劣化によりその機能は急速に失われつつあり,逆に泥炭土壌からの膨大な量の二酸化炭素の放出が問題視されている.特にインドネシアでは,泥炭火災が大きな環境問題となっており,生態系を破壊するのみならず,現地,および周辺諸国に煙害による健康被害をももたらしている.一方マレーシアでは,泥炭火災の被害は見られないものの,泥炭湿地林のほとんどがアブラヤシプランテーションとして開発され,森林の分断化,および劣化が起こっている.ブルネイに分布する泥炭湿地林は非常に小規模ではあるが,今日まで自然のままの状態で維持されている.そこで本発表では,人間活動が泥炭湿地林の生態系にどのような影響を与えてきたのか,また,泥炭湿地林のこれからについて議論したい.


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