| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S11-5  (Lecture in Symposium)

陸上生態系のin-situ観測ネットワークと衛星観測の研究連携の展望

*村岡裕由(岐阜大学)

気象・気候の短期・長期的な変動が生態系の一次生産プロセスに及ぼす影響を監視,検出,予測することは,生態学的にも地球科学的にも重要な課題である。多様な気候環境の下での多様な生態系の構造と機能のモニタリングや生物学的・気象学的メカニズムの解明は,多くの場合は調査サイトにおける小グループによる研究によって進められているものの,これらがネットワークを構築して広域の研究を可能にしている(JaLTERやAsiaFlux)。2000年頃から進化の著しい地球観測衛星は,広い範囲の生態系構造の空間分布と時間的変動に関する情報を提供し,生態系研究を文字通り幅広く展開することを可能にしている。さらに温室効果ガス観測衛星GOSATによる大気CO2濃度やクロロフィル蛍光のデータは,広域の気候—大気CO2—陸上植生の光合成の相互作用の観測を実現しようとしている。森林観測のスーパーサイトの一つである「高山サイト」などでの長期・複合的観測や野外温暖化実験,衛星データを用いた統合研究からは,陸上生態系の植生フェノロジーと光合成能が気候変動に対して敏感であることを示し,長期・広域研究の必要性を支持している。グローバルな気候変動がローカルな生態系にもたらす影響は地理的に一様ではないことから,衛星による広域の観測と地上での詳細な多地点観測を組み合わせた生態系構造・機能の変化の検出とメカニズムの解明に挑む研究も求められる。例えば日本を含むアジアモンスーン地域での気象環境の年変動の不均一性が各所の森林光合成にどのように影響をもたらすか,それが大気CO2濃度の変動としてどのように表れるのか,というような地球環境研究の発展に,多くのフィールドで生物と環境を測り生態系のメカニズムを解明する生態学は大きな役割を担う。


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