| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S12-7  (Lecture in Symposium)

Future Earthの生態学: 生物多様性から人間行動まで

*矢原徹一(九州大学理学研究院)

Future EarthはDIVERSITAS, IGBP, IHDP, WCRPを統合した国際研究プログラムであり、自然科学と社会科学の連携、科学者と他のステークホルダーとの連携を通じて、問題解決志向の研究開発を推進している。生態学は生物多様性から人間行動までを包括的に対象とする学問として、Future Earthの発展に大きな貢献ができるだろう。私の講演では、「東南アジアの植物多様性評価」と「決断科学の構築」という2つの試みについて紹介し、Future Earthの生態学の方向性について問題提起したい。
「東南アジアの植物多様性評価」では、「どの地域においてどのグループの種数が多いか?」という疑問に答えるために、東南アジア各地で100mx5mの調査区内の全維管束植物種を記録し、3万点をこえる標本を蓄積してきた。Sterile標本についても、今やDNA配列と形態形質の両方を使うことで、種の同定が可能である。樹木に関しては、既知種の6~7割を採集できた。新種も多く含まれ、クスノキ科では約35%が新種である。調査区内の全種数ではサラワク州が最大だが、クスノキ科の種数ではベトナム北部が最大、など各科ごとに種数の地理的パターンが把握できるようになった。これらデータは熱帯の植物の生態学的研究に新たな展開をもたらすとともに、保全計画立案に大きく役立つ。
「決断科学」は、あらゆる社会問題を人間の行動・意思決定の結果として統一的に理解することで、問題解決に直結する新たな科学を構築することを目標としている。「人間はどんなときに対立し、どんなときに協力するか?」「私たちはどこから来て、どこに行こうとしているのか?」などの問いに答えようとしている。心理学、人類学、社会学、経営学などの研究成果をレビューし、「決断科学のすすめ」という本をまとめた。社会の変革は生物進化に似た選択プロセスであり、適応学習が変革の基本メカニズムであるという視点を提示した。


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