| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T07-3  (Lecture in Workshop)

草原性絶滅危惧蝶類における近年の遺伝的多様性・構造の変遷−標本DNAから明らかとなったこと—

*中浜直之(京都大院・農・森林), 内田圭(東京大院・総合文化), 丑丸敦史(神戸大院・人間発達環境), 井鷺裕司(京都大院・農・森林)

 生物標本からは過去の分布情報のみならず、その遺伝情報を取得できることから、標本は保全遺伝学上強力なツールとなりうる。しかし、標本は作製点数が限られていることや、標本のDNAは断片化が進行していることから、通常の集団遺伝学的解析が難しいという問題点があった。そこで本研究では、愛好家に人気があり多数の乾燥標本が作製されている蝶類の一種コヒョウモンモドキ (絶滅危惧IB類) を対象に、標本の遺伝解析に適したマイクロサテライトマーカーを新たに開発し、その有用性について評価した。また乾燥標本及び現生個体サンプルを用いて1980年代以降の遺伝的多様性・構造を算出し、さらにその減少要因についても考察を行った。
 PCR産物長が180bp以下のマイクロサテライトマーカー9座を用いて1960年代以降に採集された標本の解析成功率を評価したところ、産物長の短いマーカーでより解析が成功する傾向にあった。PCR産物長が100bp以下のマーカーの場合、1980年代以降に採集された標本で成功率が90%以上に改善した。従って、PCR産物長の短いマーカーは標本の遺伝解析に有用であると考えられる。
 また、1980年代以降、遺伝的多様性は低下傾向にあり、集団間の遺伝的な差異が拡大傾向にあることが明らかとなった。さらに、生息地である草原面積の減少が本種の遺伝的多様性に負の影響をもたらしたことが示唆された。
 このように集団遺伝解析に過去に集められた標本を用いることで、絶滅危惧種においても減少要因が特定可能となることから、標本の利用価値は生物の保全上極めて大きいと考えられる。


日本生態学会