| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T08-3  (Lecture in Workshop)

送粉者の捕食者が送粉共生系の多様化を促進する:シミュレーションによる研究

*香川幸太郎(統計数理研究所)

送粉共生系に見られる豊かな多様性は、生物学者たちを魅了してきた。多くの実証・理論研究によって、植物―送粉者間の共進化が、送粉共生系の多様化において中心的な役割を果たすことが示唆されてきた。その一方で、送粉者と相互作用する捕食者や競争者が、送粉者の個体数や行動の変化を介して植物の適応度をも変化させ、送粉共生系の進化に影響しうることが分かってきた。しかし、送粉共生系の多様化メカニズムを論じた既存の理論研究では、送粉共生系を取り巻く捕食や競争などの相互作用が果たす役割は注目されてこなかった。本研究の目的は、送粉者に対する捕食が送粉共生系の多様化に与える影響を理論的に解明することである。そのために、植物-送粉者-捕食者の三者系において、植物の開花期,送粉者,捕食者の活動時期の進化をシミュレーションする個体ベース・モデルを開発した。はじめに、捕食者が不在の条件でシミュレーションを行った。その結果、植物と送粉者の共進化によって開花・活動時期の早い/遅い方向への二極化が起きうるが、完全な種分化に至るのは困難であることが示唆された。捕食者を導入すると、植物―送粉者―捕食者の複雑な共進化ダイナミクスが生じ、開花・活動時期が完全に分化した集団への分化や、開花・活動時期の早い/遅い時期への一方向的なシフトが起きる可能性が大きく引き上げられた。この結果は、送粉者の捕食者が、送粉者と植物の同所的および異所的な共種分化を促進することを示唆する。さらに、様々に条件を変化させたシミュレーションの結果、共種分化の生起頻度は、環境条件や植物・送粉者・捕食者の生物学的特性に強く依存することが分かった。本研究の結果は、捕食などの阻害的な相互作用と共生相互作用の協同的な作用が、多様性の進化を促進しうることを示唆する。


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