| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T09-1  (Lecture in Workshop)

大雪山:気候変動に対する高山植物群落のフェノロジー応答

*工藤岳(北海道大学)

気候変動が陸域生態系に及ぼす重大な影響の一つは、生物季節(フェノロジー)の撹乱である。特に寒冷環境に成立する高山生態系では、群集スケールの開花フェノロジー撹乱は、高山植物や訪花性昆虫の適応度や生物間相互作用に強く作用すると考えられる。しかし、気候変動に対する群集スケールの応答は、これまでほとんど解析されてこなかった。北海道大雪山系の黒岳と赤岳では、10年以上に渡って市民ボランティアによる高山植物の開花フェノロジーのモニタリングが行われている。詳細な開花フェノロジーデータが集積された2010年から2016年までの7年間のモニタリングデータを基に、気候変動に対する高山植物群落の開花パターン変動についての解析結果を報告する。
 高山生態系は、積雪が殆どない風衝地と遅くまで雪渓が残る雪田の2つのハビタットの組み合わせで構成されている。風衝地と雪田サイトにおける開花フェノロジー解析の結果、高山植物群落全体の開花構造は、風衝地早咲き植物種群、風衝地遅咲き植物種群、雪田植物種群の開花応答の組み合わせで定量化できることが示された。風衝地植物群落の開花応答は主に気温変動によって規定されているのに対し、雪田植物群落の開花応答は雪解け時期の年変動によって規定されていた。すなわち、実際の高山生態系における開花構造の年変動は、気温と雪解け進行速度の組み合わせによって説明できる。開花パターンのモデル解析の結果、夏の気温が1ºC上昇すると高山植物群落の開花ピーク期間(平年48.9日間)は5.7日短縮し、雪解けが10日早まることにより開花ピーク期間は7.8日短縮されると予想された。また、風衝地植物群落の開花応答よりも、雪田植物群落の開花応答の方が年変動が大きいことが示された。気候変動に対する高山植物群落の開花フェノロジー応答予測には、気温変動だけでなく雪解け時期の影響を考慮する必要がある。


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