| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T11-3  (Lecture in Workshop)

持続可能なミチゲーションの実践における時間概念の共有化

*渡辺守(横浜市)

 三重県が下水道浄化センターの建設予定地(約19.5ha)として選んだ宮川河口域は、江戸時代以前からの田園地帯で、古文書によると、何回かの津波も受けていたらしい。近くには小規模な工業団地もあり、予定地の生物群集が消失しても、周囲の田畑の生態系にはほとんど負荷を与えないと予想された。しかし、環境影響評価の調査により、数種の特筆すべき動植物が発見されたのである。その中で、絶滅危惧種・ヒヌマイトトンボは、事業者である三重県を困惑させた。水田の水路に成立していたヨシ群落が生息場所で、面積は500平米に満たなかったからである。建設を進めれば、周囲はコンクリートで固められて流入水は激減してしまう。ヨシ群落は乾燥し、幼虫は生存出来なくなる。三重県はミチゲーションの実施を決意したのである。
  ミチゲーションの理想は、開発前と同等の生息地となって同等の地域個体群が半永久的に存続することであろう。ヒヌマイトトンボの生活史、生息場所となるヨシ群落の動態、そして水環境を主とする非生物的要因の定量的現状把握は、新しい生息場所の設計や維持・管理の基礎として必須である。これらは、コンサルタントに丸投げするのではなく、学識経験者と県の土木担当者も共同して行ない、「昆虫の時間」や「植物の時間」を共通に体験してもらった。その後のモニタリングでも同様の方針を続けている。定量的調査の結果は三者で確認し、査読付き英文研究論文として発表して妥当性を担保した。モニタリング技術の工夫・改良も行ないつつ、これらのプロセスはすべて公開している。現在、ミチゲーションは効果があったと考えられているが、ヨシでは3年、ヒヌマイトトンボでも5年という間隔で推移を見守る必要のあることが共通認識となってきた。我が国の場合、それぞれの立場において生物の時間感覚をどのように理解出来るかが、ミチゲーションの成果に大きく関係しているといえよう。


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