| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T15-3  (Lecture in Workshop)

10市町村による南アルプスユネスコエコパークの管理運営

*若松伸彦(横浜国大・環境情報, 南アルプス市・ユネスコエコパーク推進室), 廣瀬和弘(南アルプス市・ユネスコエコパーク推進室)

南アルプス生物圏保存地域(Biosphere Reserve;ユネスコエコパーク; 以下「BR」)は、国内最大面積、最多の人口を有するBRである。核心地域は3000mを超える高山地域に設定され、多数の生物固有種が存在する。また、移行地域には10万人を超える人々が生活している。国内BRの7地域のうち4地域は概ね1町村内にエリア設定されているが、南アルプスBRは3県10市町村にも範囲が及ぶ。

南アルプスがBR登録を目指すきっかけは、2007年に設立された世界自然遺産登録推進協議会である。本協議会は南アルプス国立公園を有する市町村が、連携して南アルプス地域の世界自然遺産登録を推進する目的であり、世界自然遺産登録の前段階としてBRおよびジオパークの登録推進を行った。その結果、2008年に南アルプス西麓の長野県側が南アルプス(中央構造線エリア)ジオパークに、2014年には10市町村の南アルプスエリアが南アルプスBRに登録された。しかし、2015年の環境省公表の世界自然遺産候補地詳細調査検討業務報告書により、事実上南アルプスの世界自然遺産は困難な状況となった。そのため、南アルプス世界自然遺産登録推進協議会は南アルプス自然環境保全活用連携協議会と名称変更し、主にBRの管理運営を行う組織へと方針転換を図った。

南アルプスBRでは各自治体の担当者が定期的に情報交換や協議を行っているものの、風土や背景が全く異なる10市町村の自治体が合意形成を図った上で、事業を推進することは極めて困難である。さらに多数の自治体による取り組みのため、、各自治体のBRに対する主体性が失われ易いことに加え、各10市町村の担当者の多数が毎年交替している状況である。そのため、BR管理運営に対する長期的なビジョンが皆無であり、継続した取り組みも行いにくい状況にある。このような南アルプスBRの現状は、複数の自治体でBRに取り組んでいる各地域共通が抱えている課題である可能性もある。


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