| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-05  (Oral presentation)

琵琶湖の底にある、ちょっと変わった微生物ループ

*中野伸一(京都大学), 早川和秀(琵琶湖環境科学研究セ), 程木義邦(京都大学), 岡崎友輔(京都大学), Indranil Mukherjee(京都大学), Shoji Thottatil(ケベック大学), 高巣裕之(長崎大学)

従来、湖沼のプランクトン研究者の多くは光合成が活発で生物生産が盛んな表水層にばかり着目しており、生物の現存量が低く種多様性も乏しい深水層の研究はほとんどなされて来なかった。我々の研究グループは、琵琶湖の化学的酸素要求量(COD)上昇および難分解性DOM生成メカニズムの一端を解明した。琵琶湖では、夏季に表水層でDOM濃度が上昇する。これは、表水層で植物プランクトンが溶存有機物(タンパク質様DOM)を生産するが、表水層の窒素・リンが枯渇しているために細菌による分解が促進されず、細菌による分解は窒素・リンが比較的多く供給される水温躍層に限定される。この際、タンパク質様DOMは難分解な腐植様DOMへと変換される。琵琶湖におけるCODの上昇は、この腐植様DOMの蓄積と考えられる。ここで生成した腐植様DOMは、冬季にかけて湖水が鉛直循環するために深水層へと輸送される。また、申請者の研究グループは、夏季の水温成層している琵琶湖北湖全域の深水層でクロロフレクサス門に属するCL500-11細菌一種が優占することを解明した。我々は、さらに最近、主に細菌食者であるキネトプラスチド鞭毛虫に特異的な遺伝子プローブを用いたFluorescently in situ Hybridization(FISH)を行ったところ、夏季の琵琶湖深水層では、キネトプラスチド鞭毛虫が、全鞭毛虫の45%も占めていることを解明した。すなわち、琵琶湖の深水層では、表水層で植物プランクトンにより生産されたタンパク質様DOMが細菌により腐植様DOMへと変換され、腐植様DOMは湖水循環によって深水層へと輸送され、次の年の夏季・成層期にCL500-11細菌に利用され、増殖したCL500-11細菌はキネトプラスチド鞭毛虫に摂食されるという、表水層での一次生産に端を発する深水層特有の微生物ループが駆動しているのかもしれない。


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