| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-02  (Oral presentation)

ブナ集団における開芽時期の年変動と場所間変異:開芽積算温量の可塑性と進化

*石田清, 杉本咲(弘前大学)

温帯産樹木の開葉時期は、茎頂の休眠解除時期と内的成長に要する時間で決まる可塑的な形質であり、休眠解除時期が「冬の寒さ」の影響を受ける一方で、内的成長の期間は「冬・春の暖かさ(積算温量)」によって変わる。開葉に要する暖かさ(開芽積算温量)と冬・春の寒さとの関係には場所間変異が認められており、その要因についての知見は気候変動に対する樹木集団の応答予測に役立つ。多雪地で優占するブナについては、開葉期が早いために晩霜や消雪遅延などの気象現象の悪影響を受けやすく、そのような気象現象が発生する年や場所において、表現型可塑性と自然選択を介して冬・春の寒さと開葉時期との関係が変化し、その結果として開芽積算温量が大きくなると予想される。この予想を検証するため、青森県八甲田連峰の山麓(6地点)・高標高地(2地点)・盆地(3地点)においてブナの開葉・消雪の時期と気温を7年間計測し、冬・春の寒さ及び消雪時期と開芽積算温量(起算日1/1、閾値5℃)との関係を分析した。その結果、春(3~4月)の凍結日(平均気温0℃未満あるいは-5℃未満の日)が多い年に開芽積算温量も大きくなる傾向が認められた。この結果は、高標高地において晩霜頻度が高い年に開葉が遅れるという開芽積算温量の可塑性を示唆しており、上記の予想と矛盾しない。一方、開芽積算温量の年変動に及ぼす消雪時期の有意な影響はどの場所でも認められなかった。開芽積算温量の場所間変異についてみると、高標高地と盆地の値が山麓よりも大きくなる傾向が認められた。また、春の凍結日は高標高地と盆地で山麓よりも多く、消雪時期は高標高地で他の場所よりも遅くなる傾向が認められた。開芽積算温量と気象要因の場所間変異についての結果から、盆地の大きな開芽積算温量の成因には晩霜が関係し、その一方で高標高地の大きな開芽積算温量には晩霜と消雪遅延の両方が関係している可能性が考えられる。


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