| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-01  (Oral presentation)

膜翅目昆虫における複数化した性分化初期シグナルを統合する機構

*宮川美里(宇都宮大学・バイオ), 土田浩治(岐阜大学・応生), 宮川一志(宇都宮大学・バイオ)

膜翅目昆虫における単数倍数性の性決定は真社会性の進化を促す要素の一つであり、背景にはヘテロ型なら雌、ヘミ・ホモ型なら雄になる単一の性決定遺伝子座CSDが存在する。ミツバチでは性決定初期シグナルcomplementary sex determiner (csd)が下流の feminizer (fem)や doublesex (dsx)を制御し性分化に至る。
しかし 単一のCSDで制御される機構には、近親交配で生じた次世代の半分が二倍体の雄(ほとんどの場合、不妊または致死)になる弱点がある。
 一部のアリや寄生蜂では、二つ以上のCSDを獲得し、少なくとも一つの遺伝子座がヘテロ型であれば雌に、全ての遺伝子座がホモ型になれば雄になることで、近親交配が生じた際の不妊雄の出現頻度を抑制していることが分かっている。興味深いことにこれらの種では、雌への分化を方向付けるヘテロ型CSDと、雄への分化を方向付けるホモ型CSDが混在した個体でも表現型は雌になり、雌雄の中間型が生じない。しかし、複数のCSD由来の初期シグナルがどのように統合され性分化に至るのか、その分子機構は分かっていない。我々は近年、ウメマツアリにおいて CSD が二つの独立した染色体上に存在し、両方のアリルパターンが性決定に寄与することを明らかにした。これは本種が二つの独立した性決定初期シグナル経路、およびそれらを最終的な個体の性分化へ統合する機構を持つことを示唆しており、性決定機構の進化を理解する上で興味深いモデルである。本研究ではこの特異な性決定の背景にある分子機構を明らかにすべく、dsxfemなどの性決定関連因子のスプライシングパターンと2つのCSDのアリルパターンおよび表現型の雌雄との関連を解析し、得られた結果よりこれらの性決定関連因子が性決定初期シグナルの統合に果たす役割について考察した。


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