| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-09  (Oral presentation)

体外受精種における精子除去行動の検証 -クモハゼなわばり雄による対スニーキング戦術-

*中西絢子, 金谷洋佑, 川瀬翔馬, 竹垣毅(長崎大院・水環)

雄は激しい精子競争の中で自身の受精成功を高める様々な戦術を用いる。ライバル雄の精子を排除する精子除去は精子競争を回避する効果的な戦術であるが、これまでに体内受精種である昆虫類とイカ類、ウミウシ類で知られているだけで、配偶子が体外に放出されて受精する体外受精種では起こり得ないとされてきた。しかし、体外受精種クモハゼのなわばり雄は産卵巣内で雌とペア産卵している際にスニーカー雄に侵入を許し、放精されると、巣開口部に向けて尾鰭を激しく煽り、巣内海水を巣外に排出するような行動を示した。排出された海水にはスニーカー雄が放出した精子が含まれると考えられるため、この行動はなわばり雄が父性を防衛するための精子除去行動かもしれない。水槽内で検証を試みた。①まず、なわばり雄の尾鰭を煽る行動に精子を排出する効果があるかを確かめた。ペア産卵開始後に巣に取り付けたチューブからスニーカー雄の精子を含む海水を巣内に注入し、巣開口部をフタで閉じてその効果を排除したフタ有り条件と、コントロールのフタ無し条件で巣内の精子濃度の変化を比較した。その結果、精子の排出割合はフタ有り条件で低く、なわばり雄の行動に巣内の精子を排出する機能があることが示された。②次に、なわばり雄による精子除去行動に自身の父性を防衛する効果があるかを確かめるため、フタ条件間でなわばり雄の獲得父性割合を比較した。その結果、なわばり雄の獲得父性割合はフタ有り条件で有意に低かった。これらの結果から、なわばり雄の尾鰭を煽る行動はスニーカー雄の精子を排出する精子除去行動であることが示された。体外受精種の精子除去は本研究が初めての報告である。本種の精子除去行動の進化には、なわばり雄の特殊な放精方法と閉鎖的な空間で長時間にわたって産卵する特徴が影響したのかもしれない。


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