| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-10  (Oral presentation)

RAD-seq法による対州馬の遺伝的状態の検証

*手塚あゆみ(龍谷大学 食農研), 永野惇(龍谷大学 農学部)

対州馬は長崎県対馬市の日本在来馬で、頑丈な蹄、温順な性質、粗食に耐えることなどの特徴を持ち、農耕などに活躍してきたが、近年の農業の機械化に伴い急激に個体数が減少している。さらに、かつてアングロアラブとの交雑したことによる遺伝浸透が原因で、十分な保全の対象となっていない。本研究では、対州馬の保全のために、個体数減少による対州馬の遺伝的多様性の現状把握とアングロアラブからの遺伝子浸透の状況を明らかにすることを目的とし、RAD-seqを用いて、ゲノムワイドなSNP解析により対州馬の遺伝的多様性と遺伝浸透の状態を調べた。
長崎県対馬市の対州馬38個体、他の日本在来馬(宮古馬、与那国馬、木曽馬、北海道和種)18個体、交雑品種であるアングロアラブ5個体の血液からDNAを抽出し、SNP検出を行った。RAD-seqは欠測値が多いため、75%以上の個体が共通して持つ9,609SNPsのみを利用し解析を進めた。その結果、対州馬を含め、解析に利用したすべての品種は単系統となり、対州馬の遺伝子浸透は極めて限定的であることが分かった。一方で、他の在来馬品種に比べヘテロ接合度が低くなっており、遺伝的多様性の保持と回復が急務であることが示唆された。また副次的に、対州馬の特徴と一致する、選択の痕跡がみられる遺伝子が検出された。現在の対州馬集団へのアングロアラブからの遺伝浸透の影響はきわめて限定的である一方、遺伝的多様性が非常に低くなっていることから、個体数を増やし、遺伝的多様性の減少を防ぐことが急務であることが明らかになった。また、RAD-seqによるゲノムワイドなSNP解析は、遺伝的多様性と遺伝子浸透状態の評価に利用できるだけではなく、さらにその品種の特徴を説明する候補遺伝子の探索にも貢献する可能性があることがわかった。


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