| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-11  (Oral presentation)

環境DNA分析を用いた遺伝的多様性検出:アユ野外個体群への適用と検出力の検討

*辻冴月(龍谷大院・理工), 宮正樹(千葉中央博), 潮雅之(京大生態研セ, JSTさきがけ), 佐藤博俊(龍谷大・理工), 佐藤行人(琉球大), 源利文(神戸大・院・発達), 山中裕樹(龍谷大・理工)

遺伝的な多様性は種の安定的な存続に不可欠であるが、その分析には組織試料が必須で、対象を傷つけることが避けられない。本研究では、発表者がこれまでに確立した環境DNA (eDNA)分析に基づくアユ集団内の遺伝的変異(ハプロタイプ)の検出手法を野外個体群に適用し、その検出力を検討した。
まず、安曇川(滋賀)の水を0.5Lずつフィルターで20反復濾過した。その後、eDNAを抽出してアユのミトコンドリアDNA、D-loop領域を特異的に増幅し、試料ごとに計15反復のライブラリを調整した。その後、次世代シークエンサー(Miseq)を用いて網羅的に塩基配列を決定した。また、採水地付近の簗で同日に捕獲されたアユ96尾の組織DNAの配列をサンガーシークエンスにより決定した。eDNA分析と組織DNAから得られた配列のハプロタイプを比較し、両種法の整合性を確認するとともに、eDNA分析におけるフィルターおよびライブラリ反復間での各ハプロタイプの検出頻度を比較した。
結果、アユ96尾の組織DNAから計42ハプロタイプが得られ、組織から得られたものと同じ33タイプを含む計441ハプロタイプがeDNA分析により検出された。特に、2尾以上のアユから検出された11ハプロタイプは1つを除き、すべてのフィルターから検出された。一方、eDNA分析では高頻度でフィルターやライブラリの反復間で検出されたにも関わらず、組織DNAからは検出されなかったハプロタイプがあった。しかし、分析個体数と検出されたハプロタイプ数の累積曲線は定常状態に至っておらず、調査河川には組織DNA分析では検出できなかったハプロタイプを持つ個体がまだ多数存在していたと考えられる。以上より、環境DNA分析を用いた本手法は0.5Lの水から、調査地に2/96尾、またはそれより低い割合で存在する個体のハプロタイプを検出する力を有していることが示唆された。


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