| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-07  (Oral presentation)

サラシナショウマ3送粉型における送粉者の季節変動にあわせた性比調節機構

*田路翼(信州大・院), 石本夏海(信州大・理), 市野隆雄(信州大・理, 信州大・山岳)

サラシナショウマには異なる生態的特徴を持ち、遺伝的にも分化した3つの送粉型が存在する(Pellmyr 1986; Kuzume and Itino 2013)。タイプⅠ・Ⅱ・Ⅲは、送粉者がそれぞれマルハナバチ類・チョウ類・ハエ類を中心としている。タイプ間で花の性表現が異なり、タイプⅠは両性株と雌性株、タイプⅡは両性株と雄性両全性同株、タイプⅢは両性株が集団内で優占する。また、タイプⅠ・Ⅱは他殖率が高く、タイプⅢは他殖率が低い。両性花には強い雄性先熟があり、花期の前期は集団の雄比が高く、花期の後期には雌比が高くなる。一方、雌性花が花期の前期に咲き、雄性花が花期の後期に咲くことから、強い雄性先熟が、単性花の時期的な有利性を変動させ、集団内に単性花が維持できるのだと考えられていた(Pellmyr 1987)。しかし、この仮説ではタイプ間で性表現が異なることを説明できない。本研究の目的は、タイプ間で異なる性表現がなぜ維持されているのかを送粉者の量と質の季節変動から考察することにある。
 まず、タイプⅠ・Ⅱに訪れる昆虫の送粉者としての質を比較した結果、タイプⅠに訪れるマルハナバチ類は一回訪花あたりの送粉効率が高く、タイプⅡに訪れるチョウ類およびアブ・ハエ類は送粉効率が低かった。また、訪花頻度の季節変動を調査したところ、タイプⅠは花期を通して訪花頻度が高かったが、タイプⅡは花期の最初期と後期で訪花頻度が低くなった。これらのことから、タイプⅠの集団内では花期を通して花粉の行き来が多く、花粉を受け取る雌性花が集団内で多く維持できると考えられた。一方、タイプⅡは送粉者の質が低く訪花頻度が不安定なため、雄性花は送粉者の誘引や集団内の花粉不足の解消といった点で有利であると考えられた。自殖系統のタイプⅢは花期を通して訪花頻度が低く、繁殖保証として自殖を行っていると考えられた。
 以上の結果から、サラシナショウマの3タイプはそれぞれの送粉者に対応した繁殖様式を維持していると考えられる。


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