| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-005  (Poster presentation)

ゴマシジミの捕食に対するナガボノシロワレモコウの繁殖補償の集団間比較

*内田葉子, 大原雅(北海道大学環境科学院)

 植物は様々な草食動物からの捕食を受けるが、その捕食に対して防衛戦略を持つものが存在する。防衛戦略には、捕食自体を回避する「防御機構」と、捕食を受けたことによる成長や種子生産の低下を補う「補償反応」が知られている。本研究の対象種であるナガボノシロワレモコウ(Sanguisorba tenuifolia var. alba;以下、ナガボ)は、1個体当たり複数の花穂を付ける多年生草本である。また、チョウの一種であるゴマシジミ(Phengaris teleius)はナガボの花穂にのみ産卵し、孵化した幼虫がナガボの子房や胚珠を捕食するスペシャリストの捕食者である。これまで北海道北広島市の集団で行ってきた研究では、ゴマシジミは茎頂の花穂に1個産卵する傾向があること、そして、捕食を受けた個体では別の花穂における果実数が増加することにより個体レベルの果実生産が補償されることが確認された。従って、ゴマシジミの「産卵傾向」とナガボの捕食に対する「補償反応」により2種の共存関係が維持されていることが示唆された。本研究では、この「産卵傾向」と「補償反応」が、年や地域の影響を受けずに維持されているのかをさらに検証するため、北広島市の集団の経年調査と北海道南部の上ノ国町の集団の比較調査を行った。
 北広島市の集団では、前年と同様の「産卵傾向」と「補償反応」が確認された。前年と比較して、全体的に果実数および結果率の減少が見られたが、これは開花時期や送粉昆虫の発生時期などのフェノロジーのずれによるものであると考えられる。また、上ノ国町の集団では、ゴマシジミの個体数が少なく、産卵・捕食の充分なデータが得られなかったが、北広島市の集団と同様の「産卵傾向」と「補償反応」が見られた。よって、ナガボとゴマシジミの種間関係は、異なる集団でも同様の維持機構が存在することが示唆された。


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