| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-037  (Poster presentation)

環境DNA分析手法を用いたタイ肝吸虫の検出系の改善

*峠谷彩奈(神戸大学), サトウ恵(新潟大学), オオタケサトウマルセロ(新潟大学), 源利文(神戸大学)

 タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)は、タイを中心とした東南アジアで約1000万人の感染が報告されている寄生虫感染症である。寄生虫の幼虫に感染した淡水魚や甲殻類を生で食べることで成虫が臓器に寄生する病気であり、感染者は胆管疾患や胆管がんを発症する。タイ肝吸虫は三種の宿主を媒介し、第一中間宿主であるBithynia貝類に感染した後、貝類の体外へ放出され、第二中間宿主であるのコイ科の魚類に摂食される、もしくは鱗下に寄生し、終宿主であるヒトに感染する。感染してから発症するまでには30〜40年ほどかかり、3〜6ヶ月で死に至る。タイ肝吸虫の流行地域である東南アジアでは雨季、乾季があり、季節によって川の水位が大きく変化するため、タイ肝吸虫の生息地が大きく変わる可能性がある。感染を防ぐためには、タイ肝吸虫の分布の迅速なモニタリングをし、早急にマッピングを行う必要がある。 
 本研究では、検出感度が高くなるような検出系の開発を試みた。プライマー設計の際に、他分類群で検出率が高くなることが知られている核リボソームDNA領域の内部転写スペーサー領域(ITS領域)の18Sと5.8Sの間のITS領域(ITS1領域)を対象にし、かつ断片長の短いプライマーの開発を行った。ミトコンドリアDNAのCOI領域で作成されたプライマーと本研究で作成したITS1領域のプライマーとを組織サンプルについてリアルタイムPCR増幅を行い、検出感度を比較したところ、ITS1領域のプライマーの方が検出感度が高いことが分かった。また、感染者の多いカンボジアで採水を行った環境サンプルについても同様にリアルタイムPCR増幅を行ったところ、ITS1領域のプライマーの方が陽性の地点数が多くなったことから検出感度が高いことが分かった。環境DNA分析手法を用いた検出系の改善により、手軽にタイ肝吸虫のマッピングを行うことができ、感染予防に大きく貢献することができるだろう。


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