| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-080  (Poster presentation)

至適温度からみた侵入種Daphnia pulexと在来Daphnia種のニッチ重複度

*丸岡奈津美, 占部城太郎(東北大院・生命)

 湖沼のkey speciesであるミジンコ属(Daphnia)は日本から10種以上が記録されているが、そのうち平地湖沼に最も高い頻度で出現するのは北米から侵入したD. pulexである。日本に分布しているD. pulexは絶対単為生殖型で、4クローン系統の集団 (JPN1〜4)が確認されている。しかし、日本の平地湖沼にはD. pulexと形態的に近似しているが、遺伝的に異なる種もみられる。これまでの報告を詳細に調べると、そのうちの1種(ここではDaphnia sp.と記す)は分布が極東域に限られており、日本ではおよそ120年前に東京都内の小池から報告されているが、現在では日本での出現は極めて稀である。このことから、Daphnia sp.はかつて日本の平地湖沼に見られたが、現在では外来種であるD. pulexに競争的に駆逐された可能性がある。そこで、この可能性を調べるための実験を行った。具体的には、日本に生息しているD. pulex4クローン系統 (JPN1〜4)の個体とDaphnia sp.を対象に、春から夏に相当する12〜24℃の温度条件のもと、餌濃度0.05〜1.00mgC/Lの範囲で飼育し、競争能力の指標となる体成長速度と生残率及び生存に必要な閾値餌密度を求めた。
 その結果、D. pulexのクローン系統間で競争能力に差があり、その優劣は温度条件によって若干変化した。しかし、D. pulexクローン系統の中では、いずれの温度でも日本で最も広い範囲に生息しているJPN1が最も競争能力に秀でていた。また、20℃ではDaphnia sp.はD. pulexのいずれのクローン系統よりも競争に劣位であることがわかり、さらに12℃でもその優劣は逆転しなかった。これらの結果をもとに、D. pulex に対するDaphnia sp.の競争能力について考察する。また、懸念されている温暖化に対して、日本の平地湖沼でのミジンコ種の分布がどのように変化するのかも議論したい。


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