| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-110  (Poster presentation)

抱卵するコケゴロモガキOstrea circumpictaの性システム

*安岡法子, 安田恵子, 遊佐陽一(奈良女子大院)

動物界には,雌雄異体だけでなく,性転換や同時的雌雄同体など多様な性システムがみられる。これらの性システムについては,主にCharnov (1982)の性配分理論による説明が試みられているが,実際に性システムに影響する要因については十分にわかっていない。特に,性転換と同時的雌雄同体の境界を決める要因については,その両方をもつ動物がほとんど知られていないため,知見がない。ところが抱卵放精を行うOstrea属のカキ類では,性転換する個体と同時的雌雄同体の個体がみられることが示唆されている。そこで,本研究ではコケゴロモガキO. circumpictaにおいて,性システムとそれに対する周囲の個体の影響について明らかにすることを目的とした。
採集はコケゴロモガキの繁殖期である2017年4月から6月に広島県呉市で行った。同年6月から7月に,広島県竹原市において実験的に密度を高めてコケゴロモガキを設置する野外実験を行った。生殖腺の組織学的な観察により,雄,雌,同時的雌雄同体,性不明に分類した。その結果,コケゴロモガキの野外個体群では雄から雌に性転換する傾向があり,同時的雌雄同体の頻度が1.5%と低いことが明らかになった。ところが実験においては,同時的雌雄同体の割合が29.8%に増加した。さらに,野外調査・実験ともに,近隣に雌個体が存在すると自身は雄になる可能性が高くなるなど,周囲の個体の数や性に自身の性が影響されることが示唆された。
コケゴロモガキのように抱卵放精する固着性の種では,水中に卵を放出する種に比べて,卵が空間的に局在すると考えられる。個体密度が高くなると卵の局在性が顕著になり,局所的な精子競争により雄の適応度利得曲線が頭打ちになるため,雄機能と雌機能を同時にもつ同時的雌雄同体の頻度が高くなることが理論的に予測される。本研究で得られた結果は,実際に個体密度の違いが,種内でも性システムに変化をもたらしうることを示唆している。


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