| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-114  (Poster presentation)

同所的に生息するニホンカモシカとニホンジカの食性比較―食性の重複と生息環境の関係―

*髙田隼人(山梨県富士山研究所, 麻布大学), 勝又あゆみ(麻布大学), 矢野莉莎子(麻布大学), 南正人(麻布大学)

ニホンカモシカ(以下カモシカ)とニホンジカ(以下シカ)の同所的な食性比較研究はこれまでにいくつかの地域でおこなわれており、シカがグラミノイドを主食とするグレイザー的な採食生態、カモシカが双子葉類を主食とするブラウザー的な採食生態を持つことにより、食物資源を分割して利用していると考えられている。ただし、2種の食性の類似度は地域によって異なり、食性が大きく重複する例が一部の地域で確認されている。このような食性の類似度の違いは生息環境の食物資源の量や組成により強く影響を受けていると考えられるが、どのような条件で食性の重複が発生するかは未解明である。そこで、本研究では食物資源が2種の食性の類似度に与える影響を評価するため、長野県浅間山の環境の異なる2地域(カラマツ林および風衝草原)で2種の食性と同時に環境中の植物の量および組成を調査した。植物資源はバイオマス指数により評価し、食性は糞分析により評価した。環境中の総資源量はカラマツ林よりも風衝草原で2-4倍ほど多かった。また、植物組成はカラマツ植林地では双子葉類とササが同量程度であったのに対し、風衝草原では双子葉類が少なくササおよびイネ科草本に偏った組成を示した。2種の食性の類似度は食物が比較的少なく、バランスよく組成したカラマツ林で低く、シカは主にササを、カモシカは主に双子葉を利用した。一方供給量が多くグラミノイドに偏った組成を示した風衝草原では、食性の類似度が高く、2種ともグラミノイドを主に利用した。既存研究において食性の重複が確認されているのは食物資源が非常に乏しい地域であるのに対し、本研究では食物資源量の多い環境においても食性の重複が起こることが示された。また、植物組成の偏りも同時に食性の重複に影響を与えることが示唆された。


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