| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-143  (Poster presentation)

三重県松名瀬干潟におけるマキガイイソギンチャクの個体群動態および共生生物との関係

*後藤理, 木村妙子(三重大・院・生物資源)

イソギンチャク類の共生に関する研究の多くはヤドカリ類との関係が扱われている。一方,生きている腹足類と共生するイソギンチャクは種数が少なく,生態にも不明な点が多い。 マキガイイソギンチャクParanthus sociatus は,干潟に生息する腹足類と共生する種である。本種は従来九州にのみ分布が記録されており,生息地の減少により絶滅が危惧されている。近年,本研究室グループにより伊勢湾や三河湾の干潟で本種の分布が確認され,特に三重県松阪市の松名瀬干潟で多産することが判明した。 本研究では,本種の基礎的な生態の解明のために,松名瀬干潟における宿主上のイソギンチャクの付着状態およびサイズ組成の継続的な調査から,本種の個体群動態と宿主との関係性を明らかにすることを目的とした。 調査は2016年7月から2018年1月に,松名瀬干潟の潮間帯上部・中部・下部の各1地点で行った。調査は毎月1回,目視および小型ドレッジを用いて,イソギンチャクが付着した腹足類生貝とヤドカリ類50個体を目標に採集し,同時にイソギンチャクが付着していない腹足類とヤドカリ類も採集した。採集後,イソギンチャクについては 宿主別の貝殻上の付着数と付着位置の記録,足盤直径の測定を行い,宿主は種別の個体数と貝殻の殻長を測定した。 マキガイイソギンチャクは主に腹足類のアラムシロとホソウミニナの生貝と共生しており,ヤドカリ類と共生する個体は少なかった。共生率は調査期間を通してアラムシロで最も高かった。2016年8月,2017年7月と8月に潮間帯上部と中部でイソギンチャクの新規加入が見られた。この加入時期にのみホソウミニナへの付着率が高くなったが,その後減少していった。また,加入個体はアラムシロ1個体上には複数付着する割合が高かったが,ホソウミニナ1個体上ではその割合は低かった。これらの結果から,マキガイイソギンチャクは加入時,そして加入後もアラムシロ生貝を選択していると考えられた。


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