| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-147  (Poster presentation)

カワネズミにおけるマイクロサテライト・マーカー開発 〜系統地理および行動・生態究明の試み〜

*山崎遥(信州大・理・生物), 関谷知裕(信州大院・理工), 平澤桂(アクアマリンふくしま), 佐々木彰央(ふじのくにミュージア), 一柳英隆(熊本大院・先端科学), 元木達也(環境アセスメン(株)), 東城幸治(信州大・理・生物)

カワネズミはトガリネズミ目トガリネズミ科の小型哺乳類である。渓流に適応した国内唯一の水生トガリネズミ類で、日本固有種である。餌として水生昆虫や魚類などを食べることから、渓流生態系における上位捕食者として位置づけられる。生息が確認されているほぼ全ての都府県において、何らかの絶滅危惧カテゴリーにリストされている。捕獲ストレスに対して極めて脆弱で、非捕殺型トラップを用いたとしても、ストレスによる死亡や大きなダメージを付与してしまうことが多い。そのような調査の困難さから、生態や行動などに関する基礎的な知見はほとんど蓄積されていない。我々の先行研究では、カワネズミの糞をサンプリングすることで、この糞試料から全ゲノムDNAを抽出し、カワネズミを傷つけることなく遺伝子解析する手法を確立した。本研究では、糞からの遺伝子解析手法を用いることにより、より多くの地域集団を対象とするカワネズミの系統地理に関する究明を試みた。さらに、行動や生態の究明を目的とするマイクロサテライト・マーカー開発を行い、その有用性を確認するため、糞試料からの個体識別の可否を検証した。21座位のマーカーを開発し、解析を行なった結果、少なくとも7座位を対象とすることで統計的にも有意に個体識別可能なアリルのパターンを検出することができた。また、野外から採取した糞試料の解析においても個体識別を行うことができ、その結果、「縄張り」行動の存在が示唆された。加えて、これらのマーカーを用いた遺伝構造解析を行なったところ、mtDNA cyt b領域 (1140-bp) が解析された先行研究では、4系統群から構成され、うち2系統群が中部山岳域で混生しているとされるが、この混生する2系統群間では浸透交雑が生じていることも明らかとなった。


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