| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-252  (Poster presentation)

湿原, 耕作放棄地, 農地の生息地価値の相対的な評価 -鳥類を用いた北海道における広域的検証-

*北沢宗大(北大・農), 山浦悠一(森林総研・植生, ANU), 河村和洋(北大・農), 先崎理之(国環研), 中村太士(北大・農)

これまでに湿原や草原生態系は農地等に転換され、世界的に大きく失われてきた。しかし近年になって農地の耕作放棄が進み、開放地性生物を主とした多くの生物の生息地として耕作放棄地が機能することが示されている。一方で、耕作放棄地の生息地としての価値が既存の農地に劣り、生物へ負の影響を与えるとする研究例も世界的に多く、その生息地としての評価は正負混在している。耕作放棄地の増加が今後も予測される農地景観において、生物多様性の保全を進めるためには、その価値の正負に応じた保全策を講じることが必要である。そのため、地域ごとに耕作放棄地が生物の生息地としてどの程度機能しているかを評価しなければならない。
   日本国内でも、過去10年間で約4万 haもの農地が放棄され、現在では農地面積のおよそ1割を耕作放棄地が占める。北海道には日本の農地の約四分の一が存在し、国内の他地域と同様に耕作放棄が進んでいる。しかし、これまで北海道において、耕作放棄地の生息地としての価値は殆ど調査されておらず、その生息地としての価値を、農地や、農地転換前の自然環境の一つである湿原と比較する意義は大きいと考えられる。
   そこで、北海道内の13地域に116か所の調査地点(湿原:22か所・耕作放棄地:25か所・牧草地:26か所・畑:27か所・水田:16か所)を設置し、2017年5-7月に各地点で3回の調査を行い、鳥類の種類と個体数を記録した。応答変数を鳥類の種数あるいは個体数とし、説明変数を土地利用タイプ、ランダム効果を調査地域として一般化線形混合モデルにより解析した。耕作放棄地に生息する開放地性鳥類の種数と個体数は、北海道全域で湿原に匹敵した。畑との比較では、2.3倍の種数と3.4倍の個体数の開放地性鳥類が耕作放棄地で維持されていた。過去100年間で10万 haもの湿原が失われた北海道において、耕作放棄地は開放地性鳥類の重要な生息地になりうることが示唆された。


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