| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-020  (Poster presentation)

最終氷期約33,000年前の九州南部えびの市の大型植物化石群が示す温帯性植物の多様性

*松田悠輔(千葉大・園芸), 百原新(千葉大・園芸), 三宅尚(高知大・理), 赤崎広志(宮崎県埋文), 白池図(宮崎地質研究会)

最終氷期の寒冷期の南九州の植生と植物相の復元と,火山活動が植物相におよぼした影響の解明を目的に,宮崎県えびの市の標高約270メートルの,姶良カルデラの火砕流堆積物の下の湖成堆積物を構成する溝園層の大型植物化石の分析を行った.分析した試料は,えびの市佐牛野の約35,200年前の5層準の堆積物と,久保原の約32,300年前の3層準の堆積物である.堆積物を定量的に水洗篩別し,実体顕微鏡を用いて大型植物化石(種実や針葉・枝条)を拾い出し,同定・計数を行った.その結果,すべての層準からマツ科針葉樹の葉の化石が多産した.マツ科針葉樹には,亜高山帯に分布するコメツガ,シラビソ,トウヒとともに,温帯性のツガ,ウラジロモミ,ハリモミ,トガサワラが含まれていた.落葉広葉樹は産出数が少ないが,多様性が非常に高かった.ダケカンバ, ミヤマハンノキといった北方系の樹種も含まれているが,イヌシデ,アカシデ,サワシバ,ミズメ,サワグルミ,ブナ,コナラ,ケヤキ,マンサク,ヒメシャラ,アサガラ,エゴノキといった温帯性樹種が含まれていた.化石群の時代(約35,000~32,000年前)は,最終氷期最寒冷期(約30,000~19,000年前)以前の亜間氷期に属するが,現在では四国や本州を南限とする樹種がすでに南九州に分布拡大していたことが明らかになった.本州中部の同時代の花粉群からは,ナラ類を含む落葉広葉樹が多かったことが明らかになっているが,この地域では,最終氷期最寒冷期に多いマツ科針葉樹が非常に多いことが特徴的である.堆積物の供給源には霧島火山が含まれており,火山活動に伴う撹乱や貧栄養な土壌環境も,マツ科針葉樹が優占し,落葉広葉樹の多様性の高い植生の形成に関係していた可能性がある.


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