| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-025  (Poster presentation)

チガヤにおける種内F1雑種の劇的な開花期シフトによる生殖隔離メカニズム

*野村康之(京都大・院・農), 下野嘉子(京都大・院・農), 水野信之(京都大・院・農), 佐藤和広(岡山大・資源植物研), 冨永達(京都大・院・農)

植物において雑種形成は広く認められる現象であり、新たな形質を獲得した個体を生み出すことを通して、集団の遺伝的組成や個体群動態に影響を与える。チガヤImperata cylindricaには出穂期が5~6月の普通型と4~5月の早生型が存在し、両生態型は通常生殖的に隔離されている。しかし、東北地方や紀伊半島では、これら2生態型間の雑種が認められ、さらに東北地方では雑種が優占している。分子マーカーを利用した集団の遺伝的組成の解析から、これらの雑種はいずれも雑種第一代(F1)であることが示唆された。この結果から、両親との戻し交雑やF1同士の交雑が生じていないと考えられ、その理由として新規の生殖隔離メカニズムの存在が期待されたため、F1の繁殖特性を調査した。
出穂調査の結果、春に出穂する親生態型とは異なり、9~10月に出穂する集団が見いだされた。この秋に出穂する個体の遺伝子型は、ほぼすべてF1型であった。人為的に作出した正逆F1個体も秋に出穂した。これらの結果から、F1集団において戻し交雑が生じない理由は、F1の出穂期が親生態型の出穂期から大幅にずれているためだと考えられた。
野外で採集した親生態型の結実率は最大64.2%、平均4.2%であったのに対し、F1では最大8.2%、平均0.12%であり、F1の結実率は親生態型に比べ有意に低かった。5~6月に採集した親生態型の種子の発芽率は、人工気象器内(明暗12 h 30/20℃)および野外(京都)では60%程度であった。10~12月に採集し、12月に播種したF1が生産した種子の発芽率は人工気象器内では約76%であったのに対して、野外では春以降にもまったく発芽しなかった。これらの結果から、F1同士は交雑しにくく、冬季に散布されたF1が生産した種子は野外では定着できないと考えられた。
以上から、両親との戻し交雑やF1同士の交雑が生じていない理由は、大幅な開花期シフトによる両親との生殖隔離およびF1の結実率の低下と発芽に不適切な時期の種子散布であると考えられた。


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