| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-026  (Poster presentation)

褐藻カヤモノリ(Scytosiphon lomentaria)におけるGeographic parthenogenesisについて

*星野雅和, 小亀一弘(北海道大学)

単為生殖を行う雌個体からなる無性的集団が、それと近縁な、雌雄両個体からなる有性的集団と比べて寒冷地域や乾燥地域等に分布する現象は、geographic parthenogenesisと呼ばれる。この現象は、陸上植物・動物においては広く知られているが、コンブ等を含む褐藻類においてはこれまで報告がなかった。これは、雌雄同型の配偶体・配偶子を持つことの多い褐藻類では個体の性判別が難しく、ある集団中に雌雄両個体が存在するかどうかを知るのが困難なためと思われる。
本研究では、雌雄同型の配偶体・配偶子を有する褐藻カヤモノリにおいて、性染色体上の性特異的配列をPCR-based sex markerとして利用することで個体の迅速な性判別を実現した。このsex markerを用いて、九州から北海道までの日本各地19地点の集団の性比を調査したところ、暖流域の集団では雌雄両個体が見つかるのに対し、寒流域の集団では雌個体のみが見つかった。培養下では、寒流域の集団の雌個体が放出した配偶子は、暖流域の集団の雌個体が放出した配偶子と比べて、性フェロモンの生産量が低く、細胞サイズが大きく、迅速な単為発生を示した。これは、寒流域集団の雌個体が有性的形質を退化させる一方で、無性的形質を獲得していることを示している。また、寒流域集団の生育する地点において雌ゲノムのみを持つ胞子体個体が確認され、寒流域集団において雌配偶子の単為発生を介して世代交代が起こることが示唆された。本研究は、褐藻類におけるgeographic parthenogenesisの初めての報告である。
陸上植物・動物においては、単為生殖を行う雌集団は種間交雑や倍数性変化に由来していることが多い。しかしながら、本研究における核コード遺伝子とミトコンドリア遺伝子を用いた分子系統解析および核相観察の結果は、寒流域集団の雌個体において種間交雑や倍数性変化が起こったことを支持せず、カヤモノリにおける単為生殖を行う雌集団はそれらには由来していないと考えられる。


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