| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-031  (Poster presentation)

カタバミ属における、栄養繁殖・開花・結実への資源投資戦略

*古川知代(東北大・生命), 小野喬亮(東北大・理), 酒井聡樹(東北大・生命)

 虫媒花には、開放花と閉鎖花という二形態があるとされてきた。しかし、早い段階で二形態に分化していると開花時の訪花環境に対応できない。花弁のある開放花は、開花時に訪花環境が悪ければ無駄になる。閉鎖花は、はじめから他殖の可能性を放棄している。より柔軟に、開花時の訪花環境に対応可能な花は進化していないのだろうか。
 スベリヒユには、通常の開放花のほかに、①花弁はあるのに開花しない花と②花弁がない花がある。スベリヒユは、開花時の訪花環境に対応して、花弁の形成・開閉状態を変える戦略を採っているのではないか。
 本研究では、スベリヒユにおいて、①気象条件と花弁の形成・開閉状態の関係②「花弁が開いた花」「花弁が閉じたままの花」「花弁がない花」の性質の違いを明らかにすることを目的とした。2017年8-9月に宮城県仙台市および千葉県松戸市にて調査を行った。
 結果は、以下のようになった。①仙台市では、8月を通して、「花弁がない花」しか観察されなかった。②松戸市では、個体あたりの花数を9/5-10に測定した結果、晴れた日は「花弁が開いた花」が、曇った日は「花弁が閉じたままの花」が多かった。しかし、晴れた日でも、「花弁が閉じたままの花」が存在する個体もあった。③果実当たりの胚珠数・種子数は、花弁が開いた花>花弁が閉じたままの花>花弁がない花となった。
 8月に晴れた日の少なかった仙台市で花弁が形成されなかったことは、スベリヒユは、適した日照条件の日が続いてから花弁を形成し始める可能性を示唆している。花弁がある花は、その日の気象条件によって開花・非開花両方の状態を採りうる。ただし、その中でも、胚珠数が多い花ほど開きやすい傾向があることが示唆された。本研究によって、気象条件の良いときにのみ花弁を形成し、さらに開花日の訪花環境によって花弁の開閉状態を決めるという、より柔軟に訪花環境に対応可能な花が進化していることが示唆された。


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