| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-043  (Poster presentation)

標高に伴う成長特性の変化;複数の樹種(シラビソ・オオシラビソ・コメツガ・トウヒ)が混在する場合

*伊澤悠人(横国大・院・環境情報), 近藤博史(横浜国立大・環境情報), 酒井暁子(横浜国立大・環境情報)

標高の上昇とともに樹木サイズが低下する現象は、生活史スケジュールの調整すなわち適応的応答によると生活史理論から予測される。これと整合して、高標高では繁殖への資源分配を前倒しして伸長成長を抑制する事がオオシラビソで示唆されている(Sakai et al 2003)。しかしその既報はほぼ純林が対象で、より一般的な状況である混交林の場合は不明である。
本研究では上記の理論を針葉樹混交林の場合について検証する為に、南アルプス亜高山林の異なる標高(2100、2300、2500、2600m)において、林分構造と樹齢・成長量の調査を行った。また森林限界に至るまでの樹高を把握する為、同登山道沿い2100〜2880mに出現する針葉樹を記録した。なお調査を開始した一昨年と昨年は結実がほとんど無かったため、今回は成長特性とアロメトリーについて報告する。
本調査地では低標高では4種が混交するが、標高の低い方からコメツガ、シラビソ・トウヒ、オオシラビソの順で分布が終わる。各種とも標高とともに樹高を下げるが、オオシラビソ以外は樹高が高いまま分布が終わる傾向にあった。オオシラビソに着目すると、標高があがっても他種が存在する間は、DBHが増してもRGRが減衰せず、到達予測最大樹高の低下も顕著ではなかった。またDBH-H関係からの逸脱量には、<周囲の、自分より樹高の高い個体の密度・それらにおける他種の比率>が交互作用として有意に影響し、それらが高いほど伸長成長を優先する度合いを高めていた。一方、オオシラビソのみとなる2600mではサイズとともにRGRは低下し、到達樹高は著しく低下し、さらに森林限界まで漸次樹高を下げていた。
以上より、類似した生活型を持つ樹種が混交する場合、標高の上昇による樹木サイズの低下には、繁殖への資源分配の前倒しといった適応的な機構が働いていない可能性がある。今後繁殖量の調査を行う予定である。


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