| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-046  (Poster presentation)

シラビソ集団における遺伝的多様性と近交弱勢の評価

*石川雄大(名古屋大学), 西村尚之(群馬大学), 戸丸信弘(名古屋大学)

交配様式および種子と花粉による遺伝子流動などは、種内の遺伝的多様性の維持機構と関係しており、これらの解明は、種や集団の保全を行う上で重要である。近交弱勢による近親交配由来の個体の排除は、集団の遺伝的多様性の維持に寄与すると考えられる。また、空間遺伝構造の把握により、遺伝的多様性の維持機構と関連している種子散布や送粉を間接的に捉えることができる。本研究では、亜高山帯針葉樹林のシラビソ(Abies veitchii)集団に関して、遺伝的多様性、近交弱勢および空間遺伝構造の評価を行い、遺伝的多様性の維持機構の理解に有用な知見を得ることを目的とした。
御嶽山の亜高山帯常緑針葉樹林にある既設プロット内のシラビソ集団を対象として、5つの生育段階の個体を対象に、サンプリング、個体サイズおよび個体位置の測定を行った。サンプリングした葉と内樹皮からDNAを抽出し、遺伝子型を決定した。決定した遺伝子型から集団遺伝学的なパラメータを算出し、解析を行った。
対象としたシラビソ集団では、遺伝的多様性が世代を通じて維持されており、また近交弱勢の発現が示唆された。非繁殖段階では弱い空間遺伝構造の存在が示唆されたが、シラビソの種子散布様式(風散布)と送粉様式(風媒)による長距離散布が空間遺伝構造の発達を抑制していると考えられる。一方、繁殖段階では空間遺伝構造が消失していることが明らかになった。これは、密度効果による個体数の減少が原因であると考えられるが、近交弱勢の発現による近親交配由来の個体の排除も寄与していると考えられる。以上のことから、シラビソ集団では種子散布と送粉による広範な遺伝子散布や近交弱勢による近親交配由来の個体の排除が、遺伝的多様性の維持に貢献していることが示唆された。


日本生態学会