| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-055  (Poster presentation)

一回繁殖型多年生草本オオウバユリの繁殖特性 -種子繁殖と栄養繁殖の寄与に関する集団間比較-

*大嶋希美, 早船琢磨, 大原雅(北海道大学環境科学院)

植物集団は、その種がもつ基本的な生活史特性と生育環境との相互作用によって維持されている。本研究の対象種であるオオウバユリ(Cardiocrinum cordatum var. glehnii)は、東アジアに生育する一回繁殖型多年生植物である。オオウバユリの繁殖様式には、花を介した種子繁殖と、地下部に娘鱗茎を形成する栄養繁殖の2通りが存在する。北海道各地(23集団)に生育するオオウバユリの開花個体に関する調査により、個体サイズ、花数、遺伝的多様性に集団間変異が存在すること、また、その変異は毎年異なる個体が開花するにも関わらず、異なる年でも各集団で維持される傾向があることが明らかになった。本研究はこの集団間変異がなぜ生じ、さらにどのように維持されているのかを明らかにすることを目的として行った。
先行研究が行われた23集団より開花個体サイズ、遺伝的多様性などの特徴が異なる6集団を選択し、各集団において、交配実験、栄養繁殖の形成頻度、ステージクラス構造の野外生態調査と、分子マーカーを用いた集団遺伝構造の比較を行った。野外生態調査の結果から、開花個体サイズが小さい集団では、比較的小型で葉数の少ないロゼット葉段階での開花個体への切り替えが生じていた。栄養繁殖体形成率の違いは開花個体サイズのより大きい個体および集団で高い傾向が認められた。種子繁殖については、集団間で結実率に差が認められたものの、開花個体の特徴との関連性は見出せなかった。また、集団遺伝構造と繁殖様式との関連性は検出できなかった。
以上の結果から、オオウバユリの開花個体サイズの集団間変異は、栄養成長から開花への移行する生活史段階が各集団で異なること、すなわち開花までに蓄えられる資源量が各集団で変動しないことが大きな要因と考えられる。従って、蓄えられる資源量により、種子繁殖と栄養繁殖へ投資できるエネルギーの相対量が異なり、それが集団のステージクラス構造に違いをもたらしている可能性が示唆された。


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