| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-056  (Poster presentation)

不均質な浸水と乾燥期間がオオバアサガラ当年生実生の生残や成長に及ぼす影響

*志村綱太(首都大・理工・生命), 鈴木智之(東大・農・演習林), 可知直毅(首都大・理工・生命), 鈴木準一郎(首都大・理工・生命)

 オオバアサガラ(Pterostyrax hispida)は山地の渓流沿いなどに分布する先駆樹種であり、浸水と乾燥が繰り返される環境に適応している可能性がある。そこで不均質な浸水や乾燥期間が、本種の当年生実生の生残や成長に及ぼす影響を実験的に検討した。
 
 浸水と母樹の違いを2要因とする栽培実験を首都大学東京のビニールハウスにて行った。2016年10月に東京大学秩父演習林で採集したオオバアサガラの種子を冷湿保存し、2017年4月に植木鉢に1粒播種した。必要に応じて給水して7月20日まで栽培し、その後の96日間、鉢の地表面まで沈水する浸水期間と水から出し給水しない乾燥期間を交互に経験させ、浸水処理とした。秩父演習林付近で過去3年間の8~10月に測定された大洞川の水位データから、種子の採集地での浸水の継続日数を求め、浸水処理の水準を設定した。浸水処理には、2日間の浸水と2日間の乾燥、4日間の浸水と4日間の乾燥、8日間の浸水と8日間の乾燥、浸水せず2日に1度の給水の4水準の処理を設定した。種子の母樹の違いには、2水準を設定した。乱塊法に則って8反復を栽培した。浸水を経験した日数の合計が水準間で等しくなる16日おきに、生死と葉数を記録した。96日間の浸水処理後に刈り取り、葉、茎、根の乾燥重量を測定した。解析には一般化線形混合モデルを用いた。
 
 浸水処理中に64個体中11個体が死亡したが、生残には要因間で有意差はなかった。同様に、葉数も要因間で有意差はなかった。根、葉、地上部、個体全体の乾燥重量については浸水期間が、茎の乾燥重量については母樹が有意だった。給水のみの乾燥重量は他の処理よりも大きかった。
 
 浸水処理によって成長に差が生じた。一方で、浸水処理の効果は、生残や葉数で認められなかったことから、最長で8日間の連続浸水が生育におよぼす影響は限定的だと考えられる。以上から、種子の採集地でみられた不均質な浸水と乾燥の期間が平均的な範囲であれば、オオバアサガラ当年生実生は生残可能だと考えられる。


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