| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-078  (Poster presentation)

クスノキ老大木の通水構造:高さにともなう通水性と安全性のトレードオフ

*野口結子, 堀川慎一郎, 黒田慶子, 石井弘明(神戸大学農学研究科)

 高木種では樹高成長とともに増大する通水制限に対して、葉や木部の細胞構造が適応的に変化し、生理機能の低下を緩和することが報告されている。木部の通水効率はハーゲン・ポアズイユの法則に従い道管直径の4乗に比例して増加するが、樹高成長による静水圧の増大により通水抵抗が大きくなると、道管径が大きいほど通水機能が失われやすくなる。このような道管形質と木部の通水性・安全性のトレードオフの関係は樹高成長に対する適応的変化の一つと考えられ、種や樹齢、個体サイズによってその程度は異なる。更に老大木では経年成長に伴い通水距離や分岐数が増大するため、樹齢とともに通水抵抗が大きくなると考えられる。
 本研究では直径約1.5m、樹高約25mのクスノキ老大木(樹齢100~150年程度)3個体の樹幹上部(地上20m)と下部(地上3m)の木部構造を比較した。各個体の木部サンプルから切片を作成し、光学顕微鏡で観察し、画像を解析した。最新4年輪内(2014~2017年)の道管径(μm)、道管密度(μm−2)、年輪内分布パターン、水分通導度(Potential Hydraulic Conductivity, Kp)を樹幹の上下で比較した。樹幹下部の道管径は上部よりも大きく、特に下部の早材部には比較的大径の道管が観察された。一方、樹幹上部では下部より径の小さな道管が高い密度で存在した。1年輪内に分布する道管の径は、早材部から晩材部にかけ上下ともほぼ同じ割合で小さくなった。下部のKpは上部の約2倍で、これには早材部で見られた大径の道管が大きく寄与していた。
 以上より、クスノキ老大木の道管径やその分布において、樹幹上部では通水機能の安全性が高められ、樹幹下部では高い通水性を維持する木部構造の垂直的変異が見られた。年輪内における道管径の変化割合は樹幹上下で等しかったことから、樹幹内では下部から上部にかけて早材・晩材ともに道管径が連続的に小さくなることで、通水性より安全性を重視した木部構造へと連続的に変異していると考えられる。


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