| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-082  (Poster presentation)

タイ北部に生育する落葉性広葉樹チークの年輪炭素同位体形成メカニズムの解明

*上田和世(三重大学)

タイ北部のチーク林ではモンスーンの開始・終了時期や降水パターンの年々変動に対応してチークの展葉・落葉時期も年々変動する.さらに,こうした環境変動に対するチークの生理的応答の解明が求められている.樹木の光合成産物の炭素安定同位体比(δ13C)は土壌水分などの環境条件に応じて変動する内的水利用効率を反映している.それを材料とする年輪木部のδ13Cの変動には,その樹木が経験してきた環境変動と生理的応答が記録されていると考えられるが,一年輪内のδ13Cの変動の決定要因については不明点が多い.本研究では,タイ北部に生育するチークから2013,2014,2016年に2週間おきに採取した葉サンプルと上記3年分の年輪を約400µm間隔で分割した木部サンプルのδ13Cを測定した.葉のδ13Cとその葉の採取日の1,5,10,15,20,25,30日前までの土壌体積含水率の期間平均値との相関を調べた結果,10~20日間の平均値との間で決定係数が最大となったことから,葉のδ13Cは10~20日前までの土壌体積含水率を反映することが示唆された.次に,一年輪を16~32分割した各区画のδ13Cとその区画の推定形成日の7,14,21,28,35,42,49,56日前までの土壌体積含水率の期間平均値との相関を調べた結果,35~42日間の平均値との間で決定係数が最大となったことから,一区画のδ13Cは5~6週間前までの土壌体積含水率を反映していることが示唆された.年輪木部が葉よりも長い土壌水分の変動を反映していたのは,年輪木部が葉から輸送された炭素と木部内の貯蔵炭素から構成されているためであると考えられる.


日本生態学会