| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-100  (Poster presentation)

共生による宿主のニッチシフトが共生者の伝達様式の進化におよぼす影響

*内海邑, 大槻久, 佐々木顕(総研大・先導研)

相利共生は利用可能な資源を変え、生物が新たなニッチへ進出することを可能にする。例えば、ミドリゾウリムシでは共生藻類の獲得により従属栄養性から独立栄養性へと変化することが知られている。このように共生がニッチを大きく変える場合、共生者にとって水平伝達と垂直伝達のどちらが有利になるのだろうか。直感的には、共生相手を失ってしまうと新規ニッチを利用できなくなるため、ニッチ変化が大きい場合には垂直伝達が有利になると考えられる。しかしながら、ニッチ変化と伝達様式の関係はこれまで議論されてこなかった。そこで、本研究では共生による宿主のニッチ変化の大きさに応じて、共生者の伝達様式がどのように変わるのかを理論的に分析した。共生者の進化形質は水平伝達率であるとし、水平伝達率を上げると宿主の繁殖が抑制され垂直伝達されにくくなるというトレードオフを仮定した。また環境中には、共生状態の宿主のみが利用できる新規ニッチの資源と自由生活状態の宿主も利用できる既存ニッチの資源があると仮定した。共生によって既存ニッチの利用効率が高まる場合はニッチ変化が小さく、新規ニッチの利用効率が高まる場合はニッチ変化が大きいことに対応する。モデルの解析の結果、上記の直感に反して、共生によるニッチ変化が大きいほど共生者は水平伝達を進化させやすいことが明らかになった。これは、ニッチ変化が大きいほど、共生状態と自由生活状態の宿主間での資源競争が弱まり、自由生活状態の宿主の個体数が高く維持されるためだと考えられる。このときには、共生者が新たな宿主と出会いやすく、共生者にとっては効率的に増殖することのできる水平伝達の方が垂直伝達よりも有利になるのである。また、新規ニッチへの進出をもたらす共生系において、垂直伝達が進化するためには、新規ニッチの利用が既存のニッチ利用に比べて宿主の適応度を大きく増加させることが必要であった。


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