| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-106  (Poster presentation)

トガリネズミ形目における半地下適応に関する椎骨の機能形態学的比較

*鈴木あすみ(帯広畜産大), 川田伸一郎(国立科学博物館), 林良恭(台湾東海大), 佐々木彰央(静岡県自然史博ネット), 佐々木基樹(帯広畜産大), 押田龍夫(帯広畜産大)

系統的に離れた生物が同様の機能的適応を遂げ,類似した構造を独立に獲得する現象である「収斂進化」は,哺乳類の場合,水中や地下といった制約の大きな環境下でしばしば観察される.哺乳類の地下適応については四肢骨格に関する先行研究が多く行われており,地下性種では前肢骨格の発達がみられること等が明らかになっている.一方で,地下環境と地表環境の両方を利用する半地下性種の適応形質については未知の部分が多く存在する.四肢骨格は地下適応形質として重要な構造であるが,これのみに基づいた機能形態学的解釈は不十分であるかもしれない.実際に哺乳類のロコモーションと軸性骨格の運動性との関連が先行研究によって指摘されており,四肢骨格を支持する体幹(椎骨等)の機能も考慮する必要があるだろう.そこで本研究では,半地下性の代表的なグループとして,トガリネズミ形目Soricomorphaを材料に選び,仮説「トガリネズミ形目において系統的に異なる半地下性種は同様の半地下適応形質を持つ」の検証を目的として,椎骨形態の比較形態学的解析を行った.トガリネズミ形目5属(UrotrichusDymecodonAnourosorexSorexCrocidura)5種50個体の骨格標本を用い,属レベルで異なる半地下性4種,またコントロールとして地表性1種を比較することで収斂の説明を試みた.椎骨形態の種間比較をするにあたり,標本の各椎骨(頸椎,胸椎,腰椎,仙椎)をノギスで計測し,相対値を算出した上で解析を行った.その結果,半地下性4種は地表性種に比べて,①第3・4頸椎の長さが短く高さが低いこと,②一部胸椎の関節突起の小型化,③前位腰椎の幅が狭いことが示された.これはトガリネズミ形目の半地下性種で共通した形質と考えられ,これらの椎骨形態は半地下適応の結果による収斂を示しているのかもしれない.


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