| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-124  (Poster presentation)

マイクロCTを用いた多様な交尾器形態の発生過程の解明

*寺田夏蓮, 高見泰興(神戸大学)

体内受精を行う動物の雄交尾器の形態は,分類群間で急速に多様化する形質の1つとして知られている.交尾器形態は性淘汰や種分化に関わるため,昆虫をはじめ様々な分類群で交尾器の機能を調べた研究がある.しかし,昆虫の交尾器形態の多様化をもたらす発生学的過程については,未だほとんど分かっていない.
オオオサムシ亜属は,雌雄の交尾器形態が種間,種内で多様化している.この多様化には,精子競争による性淘汰が関与していると考えられている.雌の膣盲嚢と雄の交尾片の形態は種特異的であり,交尾の際に錠と鍵的に結合するため,種間交尾における形態学的ミスマッチが交雑を妨げる機械的障壁になる.本研究は,オオオサムシ亜属に属し,分化した交尾器形態を持つマヤサンオサムシとイワワキオサムシを対象に,マイクロCTを用いて多様な交尾器形態の発生過程を解明する事を目的とした.
 マヤサンオサムシとイワワキオサムシの蛹期は約11日のため,1日おきの蛹のサンプルを飼育によって用意し,ヨウ素染色の後にマイクロCTで観察した.
その結果,両種共に,陰茎の先端は蛹化初期から形成され外部に露出しているが,内部では日齢が進むにつれて基部に向かって徐々に形成が進み,10日齢までに全形が形成された.これと並行して,陰茎内部に収納された内袋も,日数が進むに従って肥厚し複雑に折りたたまれるように形成された.また、蛹化後4日齢まで交尾片は形成されなかったが,その後急速に形成が進み,6日齢にはそれぞれの種特異的な形態がほぼ完成した.
 本研究の結果は,種特異的な交尾片が両種ともに蛹化後4~6日に急速に形成されることを示しており,オオオサムシ亜属ではこの段階で種間の形態分化が生じていることを明らかにした.また,このような交尾器形態の発生は他の昆虫と大きく異なるため,雄交尾器の多様性は,形態だけでなく発生過程にもあることが示唆された.


日本生態学会