| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-134  (Poster presentation)

自然資本・生態系サービス評価のための森林景観シミュレーションモデルを用いたシナリオ分析手法の開発と課題

*芳賀智宏(大阪大学), 井上貴央(北海道大学), 堀田亘(北海道大学), 町村尚(大阪大学), 松井孝典(大阪大学), 森本淳子(北海道大学), 柴田英昭(北海道大学)

持続可能な生態系管理には、自然資本や生態系サービス (ESs) に関する定量的なシナリオアプローチが有効である。諸外国では過剰利用による生物多様性の状態、ESs変化を評価するためのフレームワーク開発やモデルによる分析が進んでおり、今後は日本国内でも同様のシミュレーションモデルの開発が求められる。そこで本研究では、人口分布・資本選好の変化で構成される定性的な社会変化シナリオを定量的に評価するために、シナリオに応答した植生動態をシミュレーションし、シナリオ別の自然資本とESsの変化を自然的価値の観点から評価できる一連のシステムを開発した。
本研究では北海道別寒辺牛川流域を対象とした。本システムでは、定性的な社会変化シナリオから、森林・農地管理のルールを設定した。管理の変化に応じた植生動態は、森林景観モデルのLANDIS-IIで動的・空間明示的にシミュレーションした。シナリオを特徴づける資本の選好は、食料・木材自給率の変化を反映し、森林施業の施業強度と農地の放棄地面積率で表現した。また、シナリオ別の人口分布と地理的条件に応じて、放棄される農地の空間配置を変化させた。シナリオを評価するため、自然資本は優占樹種、樹種構成の変化、ESsは炭素固定サービスと木材・牧草供給サービスをもとに、評価指標を設計した。なお、本ケーススタディでは、時間分解能は1年、空間分解能は100 mに設定し、MRI-CGCM3のRCP8.5シナリオの下で、2016年から2050年まで35年間の植生遷移を計算した。
結果からは、シナリオ別の人口分布に応じて放棄される農地の空間配置が変化し、資本の選好に応答して放棄される農地の面積や森林の樹種構成が変化し、自然資本・ESsの変化を定量的に示すことができた。今後の課題には、シナリオの解釈、モデルの表現力・信頼性向上、異なる時空間スケールでの多面的評価が挙げられる。


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