| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-160  (Poster presentation)

20年前の宅地造成が現在のモグラ類の分布に与えた影響

*内山貴久, 高木悦郎, 保坂哲朗, 沼田真也(首都大学東京)

大規模宅地開発による造成工事は,緑地の分断化や孤立化を引き起こす.一方,緑地が計画的に配置されることで生態系ネットワークが構築され,生物多様性が回復,維持されることがある.しかし,こうした生態系ネットワークのほとんどは,地上部の生物に注目したものであり,地下部に生息する生物の緑地間での分布が,宅地開発によって受ける影響はほとんど分かっていない.そこで,地下部の生態系における頂点捕食者であるモグラ類に注目し,大規模宅地開発がモグラ類の分布に与える影響を明らかにするために,多摩ニュータウン開発による土地改変の履歴と現在の土地利用,および多摩ニュータウン内の公園におけるモグラ塚の分布を調査した.
2017年4月から約3カ月おきに,首都大学東京南大沢キャンパス周辺の66公園のモグラ塚の有無を調査したところ,18公園でモグラ塚が見られた.また,公園の一部が土壌攪乱を受けなかった20公園中9公園でモグラ塚が見られ,公園の全域が土壌攪乱を受けた46公園中9公園でモグラ塚が見られた.目的変数にモグラ塚の有無,説明変数に各公園内の緑地面積,各公園内にかかる土壌攪乱を受けなかった緑地面積(以下,公園残存緑地),各公園から最寄りの土壌攪乱を受けなかった緑地面積とそこまでの直線距離,および各公園から土壌攪乱を受けなかった緑地までの土壌が露出している最短距離を用いたロジスティック回帰分析を行い,モデル選択を行った.その結果,公園残存緑地のみを含むモデルのAICが最も低くなった.また,公園残存緑地が大きいほど,モグラ塚の存在確率は高くなった.
このことから,大規模宅地開発による土壌攪乱を受けなかった面積が十分に大きい生息地では,モグラ類の局所個体群は存続可能だが,モグラ類の移動分散力は低く,新たに整備された生息地への侵入定着は困難であることが示唆された.


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