| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-171  (Poster presentation)

トキの餌生物群集の構造特性

*岸本圭子(新大 朱鷺・自然再生), 油田照秋(新大 朱鷺・自然再生), 岸本年郎(ふじのくに環境史ミ), 南谷幸雄(栃木県博)

新潟県佐渡島ではトキ放鳥後10年が経過し、現在300羽近くのトキが野生下で生息している。その間トキに関連するさまざまな研究が実施され、具体的な餌生物や採餌場所に関するデータも蓄積されてきた。例えば、トキは水田や水路など水域で得られる生物のほか、水田畦畔など陸域で得られる生物も比較的多く摂食することが明らかにされた。また、水田の稲丈が高くなる夏期には、トキは畦畔での採餌頻度が高くなることもわかってきた。畦畔の面積は田面に比べて小さく、夏期は他の時期に比べてトキの利用可能な採餌エリアが狭まると予想される。また、圃場の基盤整備による畦畔草地の縮小や、高齢化に伴う畦畔管理の変化など、水田畦畔の生態系は社会の状況に左右され、ひいては餌場として利用するトキの自立的な個体数維持にも影響を及ぼすだろう。しかし、これまで佐渡の水田畦畔に生息する餌生物の現存量や分布様式などの基本的な生態情報はほとんど調べられてこなかった。本研究は、トキの餌生物であるミミズ類(貧毛綱)とゴミムシ類(昆虫綱)を対象に群集構造を調べ、景観や季節変化、微小環境要因などとの関係を分析した。景観は、畦の改修を伴う圃場整備状況や、水田周辺の森林の存在を考慮した。例えば、ミミズ類では有機物の供給源としての森林の存在、ゴミムシ類ではエッジ効果で森林性種と草地性種の出現が重なる林縁部に着目し、森林に隣接する谷津水田の畦畔では、周囲に森林がない平地水田の畦畔より生重量や個体数は高いと予想した。しかし、予想に反して、平地水田の畦畔で両分類群とも個体数などが高くなる傾向がみられた。また、それぞれの分類群で季節性やいくつかの微小環境要因による強い効果が示唆された。特に、ミミズ類の季節変動は畦畔におけるトキの餌生物獲得可能性を左右するものと考えられた。


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