| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-187  (Poster presentation)

共生細菌を利用した内部寄生蜂の人為的な単為生殖化技術の検討

*山下晋平, 高橋一男(岡大 環境生命)

内部寄生蜂は有用な天敵生物であるが、半倍数性の性決定様式を持ち、未受精卵から生じる半数体の個体はオスとなり、産卵を行わないため防除に活用できない。半数体が全てメスとなる産雌単為生殖を人為的に誘導できれば、メスが未交尾で産む子孫が全て天敵として利用可能となり、天敵の生産効率を劇的に向上させることが可能となる。これまで、蛹のステージの寄生蜂に、産雌単為生殖化を誘導する内部共生細菌であるWolbachiaをマイクロインジェクション(以下MI)する事で、人為的な単為生殖化の誘導が試みられてきた。しかし、MI処理後の生存率が非常に低い事や、Wolbachiaの導入に成功しても単為生殖化が誘導されない事などが課題であった。形態形成が完了した成虫は、MI処理に対して蛹よりも高い生存率を示す可能性があるが、水平感染の手法は未開発である。また、自然界では経口によるWolbachiaの水平感染の可能性が示唆されているが、人為的な経口感染の試みはまだない。本研究では、キイロショウジョウバエとその内部寄生蜂であるAsobara japonicaを用い、効率の高い内部寄生蜂の産雌単為生殖化技術の開発を目的として、MI実験と経口感染実験を行った。MI実験では、産雌単為生殖化Wolbachiaを感染系統からWolbachiaを除去した治癒系統と非感染系統に導入し、発育段階(蛹と成虫)別に単為生殖化を試みた。経口感染実験では、感染系統の幼虫を宿主のショウジョウバエに与え、宿主体内を介した水平感染の有無について調べた。蛹と成虫に対するMI実験では、蛹よりも高い生存率を示した成虫へのMI処理で水平感染個体が得られ、その後次世代まで垂直感染した例も観察された。経口感染では、水平感染は検出されなかった。また、感染が見られた個体には、産雌単為生殖性を全く示さないものから、不完全ながら産雌単為生殖性を示すものまでがおり、Wolbachia感染の有無に加えて、感染量が産雌単為生殖の程度に影響する可能性が示唆された。


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