| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-192  (Poster presentation)

アカガシの堅果に寄生するタマバチ科未記載種とその生態の推定

*井手竜也(国立科博・動物), 小山明日香(東大院農)

 植物の器官の一部が昆虫の刺激によって異常な構造へと作り変えられたものを「ゴール(虫えい、虫こぶ)」と呼ぶ。ゴールを植物上に誘導形成する代表的な昆虫として、タマバエ類(ハエ目)やタマバチ類(ハチ目)、アブラムシ類(カメムシ目)が挙げられる。このうち、タマバチ科に属するタマバチ類の多くは、ナラ類やカシ類、シイ類などのブナ科樹種を主な寄主としている。
 タマバチ科は世界から約1400種が知られ、これらは大きくゴール形成者か同居者に分けられる。前者は植物上にゴールを自ら誘導形成する一方、後者は他者が形成したゴールに寄居する。後者を構成する主要な属としてSynergus属が知られている。約120種からなる本属は、近年まで専ら同居者であると考えられてきた。しかし、2011年に本属の形態的特徴を有しながら、ゴール形成を行う種Synergus itoensisが発見された。S. itoensisのゴールはアラカシの堅果内に形成される。これに酷似したゴールは、クヌギ、ウバメガシの堅果からも発見されており、分子系統解析の結果、これらのゴールから得られた未記載種2種はS. itoensisと単系統群を形成することが示されている。このことから、これら2種も、S. itoensisと同様に、ゴール形成者である可能性が指摘されている。
 今回新たに、アカガシの堅果からS. itoensisのものに酷似したゴールが発見された。成虫の形態観察の結果、本種はSynergus属の形態的特徴を有していたが、S. itoensisとは異なった特徴を有しており、未記載種と考えられた。野外観察の結果、本種は8月中旬に出現し、アカガシの発育肥大中の2年目の堅果に産卵することが判明した。さらにミトコンドリアDNAのCOI領域および核DNAの28SrRNA領域に基づく分子系統解析の結果、本種がS. itoensisの姉妹群となり、クヌギやウバメガシの未記載種とともに、単系統群を形成することが明らかとなった。これらのことから、本未記載種はS. itoensis同様、ゴール形成を行う可能性が考えられた。


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