| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-193  (Poster presentation)

ニホンホホビロコメツキモドキ-酵母栽培共生系に対する非共生酵母の影響

藤野七瀬, *土岐和多瑠(名古屋大・農)

 栽培共生(宿主が共生生物を餌として育てて食べる共生)は、様々な生物より知られ、特に社会性昆虫においてよく研究されている。昆虫-菌栽培共生系において、昆虫は共生菌の増殖や分散を助け、共生菌に利益をもたらす。共生菌は、餌資源として昆虫の成長発育に貢献する。非社会性昆虫の一種ニホンホホビロコメツキモドキ(以下、ホホビロ)は、メダケ属のタケを寄主植物として、酵母Wickerhamomyces anomalus(以下、Wa)と栽培共生する。Waは日本各地のホホビロ個体群より共生菌として分離されており、ホホビロにとって好適な「作物」であると考えられる。しかしながら、2009年に愛知県豊田市において、ヤダケ属ヤダケに依存する個体群が見つかり、別種の酵母Hyphopichia属の一種(以下、Hy)が分離された。同個体群において、寄主植物の転換とともに共生酵母の転換が起きた可能性がある。我々は、(1)Hyがホホビロの共生菌として維持されているか、(2)寄主植物の転換は、ホホビロ-酵母栽培共生系にどのような影響を与えるのか、を明らかにすることを目的とし調査を行った。
 まず、2017年に愛知県豊田市のヤダケ群落でホホビロを採集し、酵母を分離したところ、Hyは検出されず、Waが共生菌として維持されていることが分かった。次に、WaとHyの増殖能力の差を検討するため、ヤダケとメダケを用いて培養した結果、Hyは、Waよりも増殖量が多く、特にヤダケで顕著に増殖した。Waの増殖量はタケによる影響を受けなかった。ホホビロ幼虫にWaとHyを与えてヤダケ及びメダケ上で飼育したところ、Waを餌として幼虫に与えた場合、タケによる影響は見られなかった。しかしながら、興味深いことに、Hyを餌として与えた場合よりも幼虫期間が短く、体サイズの大きな成虫が羽化した。これらのことから、ヤダケ上でもWaの餌としての質がHyより高く維持されたため、ヤダケにホホビロ-酵母栽培共生系がそのまま進出できたことが示唆された。


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