| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-265  (Poster presentation)

絶滅危惧種ノグチゲラの集団遺伝学的解析

*森さやか(酪農学園大・環境動物), 泉洋江(北大総合博), 津山紗央莉(酪農学園大・環境動物), 田村庄九郎(酪農学園大・環境動物), 上開地広美(環境省), 山本以智人(環境省)

 ノグチゲラは沖縄島北部に固有のキツツキの一種である.生息環境である森林の消失や質の悪化などで個体数が減少し,絶滅危惧IA類に選定されている.1998年以来,保護増殖事業によって基礎生態の情報とDNA解析用試料が蓄積されてきたが,遺伝的解析は実施されておらず,考慮すべき遺伝的保全単位の有無や,解消すべき人為的影響による分集団化が生じているかどうかは評価されていなかった.そこで本研究では,新規に開発したマイクロサテライトマーカー12座位を用いて遺伝的集団構造解析を行なった.
 サンプルは,1998年~2013年に生息域全域で採集された332個体(成鳥208,幼鳥105,齢不明9)とし,全個体と幼鳥除外の2つのデータセットに分けて解析した.ジェノタイピングとアリル頻度解析の結果を踏まえ,遺伝的集団構造解析は10または8座位でおこなった.まず,距離による隔離の解析では,両データセットとも,どの距離でも血縁度は0付近だった.サンプリング集団間と個体間の遺伝的距離のPCoA分析でも,両データセットとも明瞭なクラスターを見いだせなかった.次に集団構造解析として,遺伝子型情報のみを用いるSTRUCTURE解析を行なったが,いずれのデータセットでもK=1と推定された.最後にGenelandによるサンプリング位置情報も考慮する集団構造解析では,幼鳥除外のデータセットでのみ,与那覇岳付近を境に南北に異なる2つの集団が推定された.
 以上の結果から,本種の個体群内の遺伝的分化の程度は低く,保全単位の考慮の必要性は低いと考えられる.南部の分集団は,生息環境の減少等による分布の縮小で一時は生息していなかった地域に,北部から分散した個体が再定着した創始者効果の結果と考えられる.この地域は,フイリマングースの徹底的防除に伴うヤンバルクイナの分布回復が報告されている地域とも重なる.ノグチゲラの最近の南部集団の個体数の維持や増加も,マングースの防除によって促進されている可能性がある.


日本生態学会