| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-269  (Poster presentation)

霞ヶ浦沿岸の農地を利用する水鳥の採食環境と食物構成

*安藤温子(国環研), 池野進(日本野鳥の会茨城県), 成田あゆ(道総研), 小村健人(京大院・農), 高田敦史(京大院・農), 米澤悟(京大院・農), 井鷺裕司(京大院・農), 小熊宏之(国環研), 井上智美(国環研), 竹中明夫(国環研)

農地におけるガンカモ類の食物利用については、採食行動の観察が容易なガン類やハクチョウ類を中心に研究が蓄積してきた。一方、カモ類など夜間に採食する種については、観察が困難なため十分に研究が行われていない。このため、夜間採食を行うカモ類に関して、科学的根拠に乏しい農業被害の認識がなされることがある。霞ヶ浦周辺の蓮田では、レンコンの食害者について科学的な検証がなされないまま防鳥ネットが張られ、毎年1000羽以上の水鳥が羅網して死亡し、関係者間の対立が生じている。本研究では、農地を利用するカモ類の食物利用を明らかにするため、カモ類の越冬期とレンコンの収穫期が重なる11月から2月にかけて糞を採取し、DNAメタバーコーディングに基づく食性解析を行った。
カモ類の採食場所である蓮田及び水田周辺で採取された糞は、オナガガモ、コガモ、ヒドリガモ、マガモもしくはカルガモ、ヨシガモ、ハシビロガモに由来していた。マガモ・カルガモの糞からはイネやハスのDNAが高頻度で検出されたのに対し、ヒドリガモの糞からはハスよりもウキクサやイネ科草本のDNAが高頻度で検出されるなど、種による食物構成の違いも確認された。これらの結果から、同所的に採食を行うカモ類の種間で食物の選択性が異なっており、食物を農産物に依存する一部の種が、レンコンをよく利用する可能性が示された。また、収穫済みの蓮田に挟まれた畔において、最も多くの糞が採取されており、糞からのハスの検出頻度は、未収穫の蓮田が多い11月よりも、多くの蓮田で収穫が終了する1月、2月において高くなった。このことから、カモ類が収穫済蓮田周辺に誘引され、商品価値のある収穫前のレンコンではなく、収穫済の蓮田に残されているハスの葉や実、廃棄レンコンなどを採食している可能性が考えらえた。今後は、今回の結果を踏まえ、カモ類の行動パターンの解析、被害量の見積もり、適切な対策の検討が必要となるだろう。


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