| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-280  (Poster presentation)

屋久島低地照葉樹林における植物群集構造と環境要因

*廣田峻(東北大学), 布施健吾(九州大学), 手塚賢至(屋久島照葉樹林ネット), 手塚田津子(屋久島照葉樹林ネット), 山下大明(屋久島照葉樹林ネット), 斉藤俊浩(屋久島照葉樹林ネット)

人間活動により、低地自然林は世界的に危機的状況にある。世界遺産に登録された屋久島も例外ではなく、過去の植林事業等により断片化が進み、照葉樹自然林は谷部を中心にわずかに残されているのみである。その一因として、ステークホルダーに対して絶滅危惧植物や希少植物の分布情報が十分に提供されてこなかった可能性が挙げられる。そこで本研究では網羅的な植生調査に基づいて、屋久島低地照葉樹林の植物多様性評価を行った。10地域22地点における100 × 5 mベルトトランセクト調査の結果、環境省レッドリスト記載種44種を含む289種(93科189属)、100m2あたり平均61.5 ± 12.8種(SD)の維管束植物が記録された。この結果は、低地照葉樹林が断片化しつつも、高い多様性を有していることを示唆する。ただし、地点あたりの出現種数は41種から147種と大きなばらつきがみられた。中でも、西部世界遺産地域の出現種数は他地域が平均109種なのに対しわずか50種であり、着生植物に加え、林床に生育する草本やシダ類が少ない傾向がみられた。NMDS法を用いた群集構造と環境要因の分析から、この違いは降水量、河川および海岸からの距離、シカ密度に関連していることが示唆された。着生植物の少なさは、降水量の少なさや河川が遠いことに由来する乾燥および潮風よる塩ストレスに由来し、林床植物はそれらに加え、シカによる採食圧にも大きく影響されると考えられる。防鹿柵の設置による植生回復も報告されていることから、西部地域では、今後、シカの高密度化対策が必要となるだろう。さらに、現在の低標高域の保全地域は女川と西部のみであるが、絶滅危惧種の分布は複数地域に分散していることから、今後の保全地域拡大が期待される。


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