| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-298  (Poster presentation)

炭素・窒素安定同位体比を用いた海棲木材穿孔生物の餌料源に関する再検討

*西本篤史(水産研究・教育機構), 芳賀拓真(国立科学博物館), 朝倉彰(京都大学), 白山義久(海洋研究開発機構)

海洋に流入した木片は海棲の木材穿孔生物によって急速に破砕される。過去の研究は、そうした生物の消化能に着目し、例えば軟体動物門二枚貝綱フナクイムシ類は鰓に共生する細菌がセルラーゼ活性を持つことから木材食者と考えられてきた。しかし、フナクイムシ類が自然条件下で実際に同化する有機物に関する一致した見解は得られておらず、懸濁態有機物(以下、POM)の利用を示唆するトレーサー実験も報告されている。長らく餌料源が明らかにされなかった原因として、餌料源候補である木片がリグニンなどの難分解性成分を含むため、同位体生態学における一般的な濃縮係数(栄養段階が1つあがるごとに、δ13Cは0~1‰、δ15Nは約3.4‰上昇)を利用した餌料源推定手法が適用できないことが挙げられる。
そこで本研究では、濃縮係数を一定と仮定するため、人為的に海底に設置したスギ丸太から経時的に採取した試料(フナクイムシ、ニヨリフナクイムシ、タカノシマフナクイムシ、ヤツフナクイムシ、オオシマフナクイムシ)を用いて解析した。餌料候補(試料を採取した木片とサンプリング月のPOM)のδ13Cを説明変数とする一般化線形モデルを作成し、AIC(赤池情報量基準)を用いたモデル選択を行った結果、木片とPOM両方を説明変数に加えたモデルが、フナクイムシ類(δ13C=-23.2±1.1‰、N=123)のδ13Cを最も当てはまりよく説明した。両者のフナクイムシ類との相関係数を餌料としての貢献度とみなすと、POMを35.5%も餌利用していることが示唆された。更に、主要な炭素源である木片のδ13C値におけるバラつき(最小値:-28.8‰、最大値:-24.5‰、N=45)をキャンセルしたフナクイムシ類のδ13Cと、POMのδ13Cとの間に季節的な同期が見られたことも、フナクイムシ類によるPOMの餌利用を強く支持する。海洋に流入した木片は、穿孔生物を介して現場の生態系に取り込まれることが知られているが、海域によっては現場の低い基礎生産が木片の生物分解を律速しうることを明らかにした。


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