| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-301  (Poster presentation)

沿岸域の貧酸素化に伴う魚類-埋在性底生動物の捕食-被食関係の変化

*折田亮, 吉野健児, 木村圭(佐大・低平地沿岸セ)

海水の溶存酸素濃度が低下(貧酸素化)すると、埋在性底生動物はより酸素の豊富な海底表面へと移動することが知られている。埋在性底生動物が海底表面に出現することは、それらの捕食者である魚類にとって絶好の採餌の機会を提供する。しかしながら、遊泳能力の高い魚類は貧酸素海域から逃避すると考えられているため、この実態解明に取り組んだ研究例は非常に少ない。本研究では、貧酸素時に採餌する捕食者はいるのか?また貧酸素化に伴い埋在性底生動物の被食状況は変化するのか?を明らかにするために、魚類を餌で誘引して捕獲するベイトトラップを用いた野外操作実験を実施した。

野外操作実験は、季節的に底層水が貧酸素化する有明海湾奥部の4地点において、貧酸素化前・中・後の各期間に実施し、各地点の海底に約1日間、餌あり/なしのトラップを1個ずつ設置した。貧酸素化前・中・後における総捕獲数は、それぞれ13個体・11個体・20個体であった。貧酸素化中の実験は、22日間に渡り溶存酸素濃度(DO)が2.2 mgL-1を下回るような厳しい貧酸素状況であったにも関わらず、捕食者が捕獲され、また捕獲数は餌ありトラップで有意に多かったことから、厳しい貧酸素状況下においても採餌する個体が存在することが明らかになった。また貧酸素化前・中は、胃内容物の大部分を小型の甲殻類や二枚貝類が占め、胃に内容物が入っている個体の割合(摂食頻度)もそれぞれ50 %・67 %であったのに対し、貧酸素化後には、胃内容物から埋在性多毛類が高頻度で検出され、摂食頻度も90 %に達した。本来ならば埋在することで捕食されなかった底生動物が、貧酸素化に伴い海底表面に出現することで、捕食者の採餌機会が増えて捕食率が増加する実態があることが示唆された。

なお、本研究では西海区水産研究所が水産庁のサポートによって実施した水質連続観測(DO)データの一部を使用した。


日本生態学会