| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-002  (Poster presentation)

樹木における地形的ニッチ分化と形質保存性の関係;カエデ属に注目して

近藤菜々美, *酒井暁子(横浜国大・環境情報)

 地形はヘテロな環境をつくり、それにより樹木の分布は決定づけられる。樹木はそれらの環境に多様な形質によって適応している。先行研究では系統的関係を考慮しておらず、どの形質が地形的ニッチ進化の中で本質的かは明らかでないため、本研究は系統解析を用いて、それらの関係を解明することを目的とした。
 調査は、秩父多摩甲斐国立公園内の西沢渓谷、黒川山のカエデ属11種を対象とし、環境項目(標高・傾斜角・ラプラシアン(凹凸の指標値)・土壌深・岩石被度・開空度・土壌C/N・土壌pH)と形質項目(DBH・樹高・幹傾斜・SPAD・SLA・葉C/N)を観測した。また、文献から、連続変数(花弁長・翼果長)と二項変数(頂芽のあるなし)のデータを用いた。系統樹は、5領域(rbcL,matK,rpl16,trL-trnF,ITS)からMrBayesを使って作成した。解析には、種の代表値として各項目の中央値を用い、系統的保守性の検定のためPagel’sλ(連続変数を対象)とD統計量(二項変数を対象)を求め、それらを考慮しながら、PGLMによって系統的に独立な関係を求めた。
 結果より、両調査地で地形構造が異なるにも関わらず、生息地のラプラシアン・土壌C/N・岩石被度は系統的に保存されており、これらは重要な地形的ニッチと考えられた。また、形質の中では幹傾斜と頂芽のあるなしのみに系統的保守性が見られた。幹傾斜は凹地形・高い岩石被度で大きく、不安定な地形的ニッチへの進出とそれに対応した幹を傾ける形質の獲得が同時に起こったことが推測された。また、頂芽のあるなしにおいては、開空度による違いが見られ、暗い環境下では横への拡大成長(頂芽なし)、明るい環境下では縦への拡大成長(頂芽あり)を優先することが示唆された。最後に、系統的保守性がない葉C/Nは系統的に保存されていたラプラシアンと関係があり、地形の中で細分化された環境によって適応放散をしている可能性が考えられた。


日本生態学会