| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-006  (Poster presentation)

オリエントブナ(Fagus orientalis)における過去から現在への潜在生育域の分布変遷

*松井哲哉(森林研究・整備機構), Kavgacı, Ali(南西アナトリア森林研), 高野宏平(長野県環境保全研, 森林研究・整備機構), 大橋春香(森林研究・整備機構), 平田晶子(森林研究・整備機構), Münevver, Arslan(森林土壌生態研究所), 田中信行(東京農業大学)

 世界のブナ属森林では、ヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)、ブナ(F. crenata)、アメリカブナ(F. grandifolia)の分布と生態に関する研究報告は多い。しかし、西アジアの山岳に分布するオリエントブナ(F. orientalis)に関しては、分布や生態はあまり明らかにされていない。本研究では、トルコ共和国に分布するオリエントブナの分布情報をもとに、最終氷期最盛期(LGM期)、完新世中期、現在の3時期の潜在生育域を、分布予測モデルの手法を用いて推定した。オリエントブナは現在、トルコ北部の黒海沿岸山地と南部山地に隔離分布している。この分布型を説明するモデルを構築するために、従属変数として植物社会学的な手法で調査された植生調査データからオリエントブナの分布を872地点準備した。説明変数として現在の気候条件を、BioClimの19変数から抽出した。一方、LGM期と6,000年前の完新世中期の気候はWorldClimより変数を抽出した。モデル構築の結果、BIO15(降水量の季節変動)がオリエントブナの分布の32%を説明し、次にBIO4(気温の季節変動)が分布の29%を説明することが判明した。構築したモデルに過去の気候条件をあてはめてLGM期と完新世中期のオリエントブナの潜在生育域を推定したところ、LGM期にはエーゲ海地域にも潜在生育域が広く分布していたが、完新世中期には同地域からは後退していたことが示唆された。このことからオリエントブナは、LGM期以降の気候変動を契機として分布域の変動が起こり、現在はトルコの北部山地の主要な分布域と同国南部の隔離分布地とに分断分布するようになったのではないかと考えられた。


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