| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-034  (Poster presentation)

櫛形山におけるエゾヒョウタンボクの分布に影響する環境条件

*指村奈穂子(山梨県森林総合研究所), 長谷川文(マウンテンワークス), 池田明彦(品川区役所)

エゾヒョウタンボクは、東北地方では風穴地に隔離して分布し、北海道では風穴の他に海霧の発生する地域にも広く分布している。南アルプスでは、エゾヒョウタンボク(以前のスルガヒョウタンボク)は、他地域と異なり高標高域に分布が知られている。このうちの櫛形山において、本種の分布がどのような環境条件の影響を受けているかを明らかにする目的で研究を行った。
櫛形山周辺の標高1800m以上を踏査し、エゾヒョウタンボクの株の位置をGPSで記録して、株のサイズを測定した。1mスケールの標高から集計した地形条件と、1kmスケールの気候条件、衛星写真判読による林相区分を、125mのメッシュごとにGISで整理した。これらを合わせて、MaxEntおよび回帰樹木分析を行った。
エゾヒョウタンボクは、標高約1900m、傾斜約15度で、南斜面以外の小谷部に集中し、常緑針葉樹林以外のカラマツ植林や半自然草原に多くみられた。櫛形山は夏季に霧が多くみられる地域であり、エゾヒョウタンボクは、日当たりの良い南斜面や尾根部以外の、霧により湿度が保たれる小谷部で、かつ、明るい林床に多く生育しているといえる。
櫛形山塊は西斜面が緩く、東斜面が急になっており、西斜面に断層および稜線に並行した線状構造が南北方向に数本走っている。東斜面の急崖は、線状構造に沿った断続的な地滑りを起因とし、さらに継続的な斜面崩壊を起こしていると推察され、東斜面が甲府盆地に面する急崖であることが上昇霧を発生しやすくしていると考えられる。櫛形山塊はこのような隆起と崩壊のプロセスを、特に第四紀以降活発に繰り返していると考えられ、このような活動は、通常の亜高山帯にみられる常緑針葉樹の優占を妨げ、カラマツ植林が行われる以前から林床の明るい立地の維持につながったと推察される。これらの要因が櫛形山でエゾヒョウタンボクの個体群が維持されてきた一因であるかもしれない。


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